八咫烏シリーズ外伝2『烏百花 白百合の章』。電子書籍で発売されていたものと書き下ろし一作。第二部『楽園の烏』につながりがりそうなお話も…。

かれのおとない(書き下ろし)
茂丸の妹、みよし視点の物語。兄が時々家につれてくる雪哉に淡い思いを抱くみよし。
そして、大好きな兄を亡くした悲しみと、あこがれの人が遠くなってしまった寂しさ。
だいたい、葬式の時の親戚がろくな事を言わないのは、山内も現世も同じですね。
悪気はなく、遺族にかける言葉をうまく言えないからなのはわかるけれど、こっちのメンタル削るようなこと言うんだよねえ…。
なんだかラストの会話から察するに、多分みよしちゃんの望む「楽園」は、雪哉の目指すものとは違うのかもしれない、それが『楽園の烏』につながるのかな…。
あきのあやぎぬ
真赭の薄の兄君・顕彦の物語。苦労症の真赭の薄、明留とちがい、顕彦はのほほんとした性格です。
山内の娯楽や中流貴族の没落の様子も描かれていて、山内は楽園、桃源郷と称されますが、どこの世界も世知辛いことはあるのですねえ。
ふゆのことら
八咫烏シリーズの振り回され役、市柳くんのお話。
本人には申し訳ないけれど、彼がいじられているくらいのほうが、山内が平和なんだと思います。
市柳くんのエピソードは漫画版『烏は主を選ばない1』にも反映されています。
なつのゆうばえ
シリーズの敵役、大紫の御前の少女時代のお話。こうして視点をずらすことで、その人物の別の顔に触れられるのが外伝のいいところですね。
悪役ではありますが、魅力的な人物です。
はるのとこやみ
あせびの母親、浮雲の話。浮雲とその相手に何があったのかは、具体的には語られていません。
だからこそ最後のセリフが恐ろしい。敵役ながら自分の行動に自覚と責任がある大紫の御前と、行動に自覚のない浮雲。
いったいどちらが怖いかというと、私は後者です。
ちはやのだんまり
妹の幸せを願う兄。しかし、妹の結婚相手はまさかのチャラ男!
外見だけではわからないのは人間も八咫烏も同じですね。でもしっかりものの妹・結ちゃんが選んだ相手だし、きっと大丈夫でしょう。
おにびさく
「鬼火灯籠」という山内独自の照明器具、それを作る職人たちの物語。
架空の道具ではありますが、制作の様子や完成後、明かりが灯る描写がとても美しく、リアルに感じます。
きんかんをにる(書き下ろし)
こちらは描き下ろし。『弥栄の烏』後、まだ小さかった紫苑の宮が、父である奈月彦と金柑の甘煮をつくるお話です。金柑の甘煮は『烏は主を選ばない』にも登場した奈月彦の得意料理。
その調理過程が詳細に描かれてます。
いやもう、紫苑の宮のかわいらしさと言ったらないですよ…!
ちいさな手でお椀をもって金柑に砂糖をまぶすところとか、雪哉をみつけて顔がぱあっと笑顔になったり、奈月彦が髪を三つ編みにして、それをとても喜ぶ姿など。
どこもかしこも愛おしいです。
しかし宮は愛らしいだけでなく、小さくても為政者としての素質と責任感を持ち合わせています。
愛おしくも、思わず頭をたれたくなる威厳は『十二国記』の泰麒のよう。もう、紫苑の宮と泰麒は、ファンタジー小説界の二大「愛しいこども」に認定したいくらいです。
そして、二人とも大人になって悲惨な道を歩むところも似ていますが…。
八咫烏シリーズ感想
未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。
第一部
- 『烏に単衣は似合わない』…ゆるふわ世間知らず美少女のシンデレラストーリー?
- Audible『烏に単衣は似合わない』…そりゃこんな声で笑顔で言われたら落ちますよ…
- 『烏は主を選ばない』…ひねくれ小僧と空気読まない若君のバディ誕生
- 『黄金の烏』…人(八咫烏)食い猿がやってきた…!
- 『空棺の烏』…人材育成、和製ハリー・ポッター(魔法なし)
- 『玉依姫』…なんで私が異世界に?
- 『弥栄の烏』…山神さま、ちょっと落ち着いてください…!
第二部
- 『楽園の烏』…地獄のここが楽園だ。ダース・ベイダー雪斎爆誕
- 『追憶の烏』…私はただ、お慰めしたかっただけなのです…!
- 『烏の緑羽』…バブみイケメン成長ゲー
- 『望月の烏』…私、博陸侯のお手伝いをしたいのです!
- 『亡霊の烏』…紫苑VS博陸侯。試合に勝って勝負に負けた博陸侯
外伝
- 『かりんみず』…美味しいかりんみずはいかがですか?藤波さま
- 『さわべりのきじん』…虫を生のまま食おうとすんじゃねえ
- 『きらをきそう』…山内の北斎父娘
- 『烏百花 蛍の章 八咫烏シリーズ外伝1』…雪哉がセミ食ったりとか
- 『烏百花 白百合の章 八咫烏シリーズ外伝2』…きんかんを煮たりしています
幕間(外界視点からの山内)
松崎夏未さんによるコミカライズ
- 『烏に単は似合わない』…四巻の一コマが特にヤバい
- 『烏は主を選ばない1』…絶妙なキャラクターと風景描写
- 『烏は主を選ばない2』…ムチャ振り、刺客の襲来、貧民街への出向
- 『烏は主を選ばない3』…圧巻の谷間描写
- 『烏は主を選ばない4』…「あれは下賤の者だ」の意味
- 『烏は主を選ばない5』…意外な裏切り者と意外な協力者
ファンブック・イベント
- 『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』…ファンブックの電子簡易版
- 『八咫烏シリーズファンブック』…読めばだいたいのことはわかる
- 『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想…鬼畜作家に精神を翻弄される漫画家
- 八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023…眼福だったし阿部先生ファンには菩薩だった
- 漫画版『烏は主を選ばない』3巻刊行記念スペースざっくり聞き書き…計算され尽くしたキャラ設定まじすごい