『烏に単は似合わない』に登場した桜花宮の侍女・早桃の家族の物語です。
なんて切なく、悲しい物語なのでしょう。
たったひとりの無邪気な欲望によって、多くの八咫烏が犠牲になるのが「楽園」である山内の「地獄」なんですよ…。

『かりんみず』あらすじ
桜花宮の女房だった姉の早桃が死んだと知らされ、悲しみに暮れる家族。弟の章次は姉の死に疑問を抱き、兄とともに真相を調べようとする。
関係者から話を聞くうち、内親王が姉の死に関わっていると知った章次は庭師となって藤浪の宮が静養する寺へ出入りするように。
藤浪に花を贈ることで親しくなることに成功する。復讐のため藤浪に近づく章次。しかし…。
欲望の犠牲
花梨をはちみつで煮てつくる「かりんみず」は章次や早桃が夏に飲んでいた家族の思い出の味でした。きっと優しい早桃は藤浪にもつくってあげたのでしょうね。
それにしても、あの女の無邪気な欲望のため、いったい何人の八咫烏が犠牲になったのでしょうか。
コミカライズ『烏に単は似合わない』の4巻では、涙する美しい彼女の下に数多くの屍が描かれるシーンがありましたが、『かりんみず』はまさにそれを体現する物語でした。
この物語は『追憶の烏』での滝本の述懐場面とリンクしているので、読み比べるとより、物語を深く味わえます。
「追憶」では、庭師の青年と藤浪の交流を快く思わない大紫の御前によって消されたともとれる描写ですが、『かりんみず』では自ら逃げた描写になっています。
章次が大紫の御前の毒牙にかからず、逃げ延びていてほしいと願わずにはいられません。
この話で唯一の救いは一巳と白珠が幸せに暮らしていることでした。
駆け落ちしたとはいえ、実家からなんらかの援助があるらしく、落ち着いた暮らしぶりでよかった。幸せになってほしい…。
八咫烏シリーズ感想
未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。
第一部
- 『烏に単衣は似合わない』…ゆるふわ世間知らず美少女のシンデレラストーリー?
- Audible『烏に単衣は似合わない』…そりゃこんな声で笑顔で言われたら落ちますよ…
- 『烏は主を選ばない』…ひねくれ小僧と空気読まない若君のバディ誕生
- 『黄金の烏』…人(八咫烏)食い猿がやってきた…!
- 『空棺の烏』…人材育成、和製ハリー・ポッター(魔法なし)
- 『玉依姫』…なんで私が異世界に?
- 『弥栄の烏』…山神さま、ちょっと落ち着いてください…!
第二部
- 『楽園の烏』…地獄のここが楽園だ。ダース・ベイダー雪斎爆誕
- 『追憶の烏』…私はただ、お慰めしたかっただけなのです…!
- 『烏の緑羽』…バブみイケメン成長ゲー
- 『望月の烏』…私、博陸侯のお手伝いをしたいのです!
- 『亡霊の烏』…紫苑VS博陸侯。試合に勝って勝負に負けた博陸侯
外伝
- 『かりんみず』…美味しいかりんみずはいかがですか?藤波さま
- 『さわべりのきじん』…虫を生のまま食おうとすんじゃねえ
- 『きらをきそう』…山内版・北斎の娘と花魁の世界
- 『烏百花 蛍の章 八咫烏シリーズ外伝1』…雪哉がセミ食ったりとか
- 『烏百花 白百合の章 八咫烏シリーズ外伝2』…きんかんを煮たりしています
幕間(外界視点からの山内)
松崎夏未さんによるコミカライズ
- 『烏に単は似合わない1』…圧巻の描写と詳細な設定で描かれる八咫烏ワールドの始まり
- 『烏に単は似合わない2』…姫たちの陰謀と思惑が交錯する中、ある事件が起こる
- 『烏に単は似合わない3』…桜花宮で起こった連続殺人。さらに姫の一人が心を病んでしまう
- 『烏に単は似合わない4』…陰謀と殺人の真相。その真犯人は意外な人物だった
- 『烏は主を選ばない1』…絶妙なキャラクターと風景描写
- 『烏は主を選ばない2』…ムチャ振り、刺客の襲来、貧民街への出向
- 『烏は主を選ばない3』…圧巻の谷間描写
- 『烏は主を選ばない4』…「あれは下賤の者だ」の意味
- 『烏は主を選ばない5』…意外な裏切り者と意外な協力者
ファンブック・イベント
- 『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』…ファンブックの電子簡易版
- 『八咫烏シリーズファンブック』…読めばだいたいのことはわかる
- 『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想…鬼畜作家に精神を翻弄される漫画家
- 八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023…眼福だったし阿部先生ファンには菩薩だった
- 漫画版『烏は主を選ばない』3巻刊行記念スペースざっくり聞き書き…計算され尽くしたキャラ設定まじすごい