八咫烏シリーズ7『楽園の烏』阿部智里(ネタバレ含む)

八咫烏 ファンタジー

八咫烏シリーズ第二部『楽園の烏』は第一部『弥栄の烏』から20年後が舞台。

若宮や浜木綿、そして雪哉は…?表紙に映る女性はいったい…?
そんな期待とワクワク感は、読んでいくうち衝撃に変わりました。

著:阿部 智里
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『楽園の烏』あらすじ

安原はじめは、養父の遺産としてある山を相続する。父からは「どうして売っていいかわからない限り、売ってはいけない」と謎めいた遺言を残された。

そして彼が相続人となった途端、山を売って欲しいという人々が押し寄せる。

一体その山にはなにがあるのか。「幽霊」と名乗る美しい娘の案内で、はじめは山に向かい、そこで「楽園」のごとく存在する八咫烏の住まう土地「山内」を知ることになる。

そこには博陸候と呼ばれる山内の統率者・雪斎が現れ、山内は八咫烏の住む土地だと説明を受ける。

しばらく山内に滞在することになったはじめは、「楽園」山内の裏の面を知り、争いへと巻き込まれていく。

『楽園』とはなにか

はじめは、若い山内衆である頼斗とともに山内の観光にでかけ、「あんたにとって、ここは楽園か?」と問い続けます。そして誰もがみな「博陸候は慈悲深い。ここは楽園だ。」と答えます。

博陸候は、かつて谷間とよばれた暗黒街を掃討し、住民にも新しい仕事をあたえ慈悲を持って接していると。

安原はじめは、それがひっかかったんですね。全員が肯定する楽園なんて、楽園じゃないと。

頼斗の語る博陸候への尊敬と理想も、怪しい新興宗教のような、自分の理想を相手に押し付ける感じがするんですよ。

そういえば、過去に某国が海外にいた国民に帰還を促すキャッチフレーズは「地上の楽園」でした。娼婦を女工場へ「公正」させるのも、某大国が革命後に行った事業でした。

現在の山内には、それらに似た危うさを覚えます。そして、すべて読み終えると、「楽園」の意味にゾッとします。

『楽園の烏』つながる短編『烏の山』。こちらを読むとさらにゾッとしますよ…。

残酷で魅力的な展開

『烏に単は似合わない』ではラブストーリーの定番を覆し、『玉依姫』では、せっかく長続きしそうなシリーズの世界観を早々にネタバレさせてきた阿部先生。

さらに『楽園の烏』を読んで「この作家、何する気なん?(群馬弁)」と思ったものです。

しかし、第二部ではさらに拍車をかけて、雪哉を冷徹で老獪な策士として登場させています。

『弥栄の烏』で親友亡き後の雪哉がどうなっていくのか心配でしたが、まさかここまで冷徹になっているとは…

読んでいて思わず、「雪哉がオーベルシュタインになっている…!」とつぶやきましたよ。こんな変化ってある…?

※「オーベルシュタイン」とは、田中芳樹先生の名作SF歴史絵巻『銀河英雄伝説』に登場する目的のためなら手段を選ばない軍師です。

さらに、これまでの登場人物たちが、どうやら悲惨な末路をたどったらしいと書かれていて、読み切った後に思わず「ちくしょうめ!(褒め言葉ですよ)」と口に出しましたよ。

残酷であるのに魅力的で、ページを捲る手がとめられない。ほんとうに恐ろしい作家だ…

「鍵」でひっくり返る可能性

あるいは、『烏に単は似合わない』のように、叙述トリックを使用している場合、まだ明かされていない「鍵」が見つかれば、状況が正反対にひっくり変えるかもしれない。とも思っています。

よく読み込んでみると、最初の方、はじめのセリフがラストの展開につながっていたりするので、それがセリフや細かい行動にヒントが隠れていそう。(今の所よくわからないけど)

無慈悲に見える雪哉の行動や、紫苑の宮(と思われる人)についても、これから驚くべき真実が現れるのかもしれません。

でないと、長束がそのままの地位で山内に居続けることにも説明がつくんじゃないかと。

八咫烏シリーズ感想

未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。

第一部

第二部

外伝

幕間(外界視点からの山内)

松崎夏未さんによるコミカライズ

烏に単は似合わない

烏は主を選ばない

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ネタバレ込みのこれまでの考察

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