八咫烏シリーズ10『望月の烏』(ややネタバレ)阿部智里

八咫烏 ファンタジー

八咫烏シリーズ第二部『望月の烏』。時間軸でいうと『追憶の烏』の十数年後、『楽園の烏』の少し前といったところです。
一部ネタバレがありますので、未読の方はぜひ、『望月の烏』後に御覧ください。

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『望月の烏』あらすじ

金鳥代・凪彦の后選び「登殿」が行われることになり、東家、南家、北家、西家から新たな姫が選ばれ桜花宮にやってくる。

しかし、以前の「登殿」とは異なり、政治的な取り決めにより皇后と側室(それに羽母まで)に選ばれる家はあらかじめ決まっていた。

一人だけ期待されない后候補として桜花宮にやってきた西家の桂の花は、北家の鶴が音から執拗ないじめを受け、苦しい日々を送っていた。

そんな中、美貌の落女(男として朝廷で働く女性)・西家出身の澄生(すみき)が注目を集め、凪彦もまた、彼女の聡明さに興味を持つようになり…。

金鳥代凪彦(ややネタバレ)

今回、私が一番驚いた人物が凪彦でした。『追憶の烏』で奈月彦が暗殺され、貴族たちによって担ぎ上げられた少年帝。

母親は「あの」あせびの君で、父親は凡庸な捺美彦です。さぞかし母親の影響や博陸候の言いなりの愚者だと思っていたら、存外に彼は聡明な人物でした。

平安時代で例えるなら、破天荒な花山帝ではなく、人間関係のバランスを重視した一条帝のような人物といえるでしょう。

澄生の言葉に耳を傾け、博陸候の政治に対する疑問を抱くようになるのですが、博陸候にかかってはなすすべもありません。

しかし、仮にも最高権力者である彼が現状の問題に目覚めたことは無駄ではなかったのでしょう。

博陸候雪斎の意図

澄生(すみき)は落女として文字通り宮中を引っ掻き回していきます。綺羅絵(山内の浮世絵のようなもの)の版元や絵師に近づいたり、凪彦に博陸候の政治の問題を指摘したり。

・綺羅絵についてはこちら『きらをきそう』

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博陸候は彼女を泳がせておくのが得策と考えたようです。その方が敵味方が見極めやすくなるから。
それは『烏は主を選ばない』で、彼の主である奈月彦が行った手法と同じですね。

そして、ここからは私の想像なのですが、もしかしたら雪哉(雪斎)は、自分の「敵」を集めて殺すのではなく、「味方」を集めてもろとも自らも滅びようとしているのではないかと。

自らが誘蛾灯となって害虫を引き寄せ、今までの山内を壊し、新しい山内を紫苑の宮に渡すつもりだとしたら…。

そんな風に思えて仕方がないんです。

澄生も、敵を味方に引き入れることの重要性を俵之丞にも語っていましたしね…。

あせびと真赭の薄(ネタバレ)

『烏に単は似合わない』でお后候補として敵対していた、あせびと真赭の薄が登場します。

あせびは今や大紫の御前と呼ばれる、山内で最も地位の高い女性として、40を超えた今も少女のように美しい。

本人に自覚はないだろうけれど、自分の登殿時の意趣返しとばかりに、姫たちに雛人形をもってこさせたり、新たに后候補の姫を登殿させようとしたりと、やりたい放題です。

一方で真赭の薄は年相応に老けてはいるものの、はつらつとして若々しく、新たに2人の息子に恵まれ夫とともに貧民救済の仕事に励んでいます。

真赭の薄の刻んだシワや白髪は、彼女の生き様の勲章のように描かれていることに、私はとても感銘を受けました。

幸せの定義は人それぞれですが、あせびと真赭の薄、果たしてどちらが幸せなのでしょうね。

あせびは多くを手に入れましたが、最も欲したものは最後まで得られなかったのですから。

八咫烏シリーズ感想

未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。

第一部

第二部

外伝

幕間(外界視点からの山内)

松崎夏未さんによるコミカライズ

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ネタバレ込みのこれまでの考察

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