八咫烏シリーズ外伝『きらをきそう』阿部智里

八咫烏 ファンタジー
八咫烏

きらをきそう』は異世界・山内の版画「綺羅絵」と遊郭をモチーフにした短編。今後の物語に続く設定や伏線が設けられていて、読み応えのある外伝でした。

著:阿部 智里
¥200 (2025/05/12 19:51時点 | Amazon調べ)

『きらをきそう』あらすじ

長津彦(奈月彦の祖父)の金鳥代時代、町民文化が花開き「綺羅絵」と呼ばれる版画が流行。

登鯉亭と光雲亭という二人の絵師が世間の人気を二分していた。

ある時、登鯉亭と光雲亭に変わった依頼が舞い込む。花街で評判の二人の太夫、高野太夫と凌霄太夫の姿を描き、どちらか一方の絵を選ぶ競い合いだが、そこには貴族の正室選びが関わっているという。

実は、近ごろの光雲亭の仕事は、父親の代わりに娘の「しの」が手掛けていて、今回の対決も登鯉亭としのが受けることに。

二人は下絵を描くためそれそれの太夫の元を訪れるが、しのは高野太夫の描き方がつかめず、こっそりと妓楼に忍び込む。

太夫の姿を垣間見ようとするが、そこで見たのは…

絵師と花魁

八咫烏シリーズでは、衣装などの風俗は身分が下がるに連れて時代が下がる設定です。特に中央の里烏社会は江戸文化の華やかさを取り入れ、独自の進化をとげています。

遊郭文化は江戸の吉原をモデルにしているようですが、本性が烏の彼女たちは飛べるため、遊郭の窓は逃げられないよう格子がはめ込まれているなど、異世界独自の設定も見えて興味深いです。

しかし、正直なところ、光雲亭と「しの」、登鯉亭は、葛飾北斎と娘の葛飾応為、弟子の渓斎英泉と被ってしまうんですよ。

モデルのほうが個性が強いから、どうしたって比較してしまう。

それに凌霄太夫と高野太夫の関係も、松井今朝子さんの『吉原十二月』の花魁二人と比べちゃうんだよなあ。だからといって『きらをきそう』がつまらないわけでは決してないんですが。

最後は山内の世界観や二人の太夫の出自や感情が伝わる展開になっていて、山内独自の物語として楽しめました。

綺羅絵の描写

綺羅絵は、浮世絵と同じく木版で刷られるものと肉筆画がありますね。

しかし、しのが描く綺羅絵の描写は、日本画というより油絵の表現力を感じます。特に、高尾太夫を描いた絵の描写を読んだ時、私は黒田清隆の絵画「智・感・情」を思い出しました。

特に「感」の絵は高野太夫の凛とした美しさを感じます。もしかしたら、綺羅絵は浮世絵より、もう少し写実的なのかもしれません。

これから「しの」が成長し、どんな絵師となるのか「楽園」時代まで生きているとしたら、一体どんな絵を描いているのか、気になるところです。

私は「望月」と「亡霊」で出てきた綺羅絵は、婆さんになった「しの」が描いたような気がするんです。

彼女なら博陸候の体制に不満をもっていて、実際に描き切る胆力もありそうですから。

ネタバレ感想

そして、今回、綺羅絵によって選ばれたのは凌霄太夫の方でした。そして彼女が後の北本家当主の妻であり、雪哉の祖母となるお凌の方です。

凌霄太夫は、松崎先生がコミカライズ『烏に単は似合わない3』に花魁パートを登場させたことで阿部先生がインスパイアされ『きらをきそう』ができたのだとか。

また、彼女の特殊能力、「客の顔と行動をすべて覚えている」超記憶の体質は、孫に当たる雪哉にも(おそらく娘の冬木にも)受け継がれています。

八咫烏シリーズ感想

未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。

第一部

第二部

外伝

幕間(外界視点からの山内)

松崎夏未さんによるコミカライズ

ファンブック・イベント

ネタバレ込みのこれまでの考察

タイトルとURLをコピーしました