八咫烏シリーズ『はるのとこやみ』は1巻『烏に単は似合わない』の前日譚。東家の姫・あせびの母親・浮雲のお話です。
音楽で心を通わせるラブ・ストーリーのはずが…。

『はるのとこやみ』あらすじ
東家は音曲を司る家柄。庶民にも広く音曲を奨励しており、双子の伶と倫も庶民の出だが、楽才で東家に仕えることを許されていた。
自分の才能に限界を感じ、弟の倫に嫉妬を覚える伶。
ある時、帝である金鳥代に嫁ぐ登殿の候補者選びのため、邸内で梅見の宴が開かれる。そこで二人は驚くべき演奏を聞く。
それは浮雲という姫の音だった。姫の音に魅了された弟の倫は、密かに姫と合奏を行い、心を通わせていく。
弟は姫との恋に溺れ、けっきょく楽士となれたのは伶の方だった。ある日、中央に出仕した伶のもとに、弟が自殺をしたと知らせが入る。
真相を確かめるため、浮雲の元を訪れる伶。そこで見たのは、弟の髪と目を持つ小さい姫だった。
浮雲が弟を愛していたと確信した伶は、彼女に対面する。しかし、浮雲の口から出たのは、思いもかけない言葉だった…。
一番怖いのは、自覚がないこと
最後の浮雲のセリフにゾッととしました。
浮雲もあせびも、したたかで計算高いのですが、なんというか、その時々で欲しいものがあると全力を尽くすけれど、手に入れるとすぐに飽きて、忘れてしまうんですよね。
『烏に単は似合わない』によると、浮雲は若君の母親殺しにも絡んでいるらしいのですが、そんな浮雲を持ってしても、敵わなかった大紫の御前すごいわ…。

おまけのネタバレ考察
先日参加した『追憶の烏』ネタバレトークイベントで、阿部先生、コミカライズ担当の松崎先生が『はるのとこやみ』について、「見方が変わればあのセリフはいくつもの意味をもつ」とおっしゃってたので、ちょっと考えてみました。
あの最後のセリフ、「あなた、だあれ?」は、もしかしたら浮雲は視力が弱く、伶と倫を声で判断した、という見方もできるかもしれない。
だとしたら、倫の死は捺美彦か、もしくは東家の人間の仕業かもしれない。
別に目が悪くても、良家の姫なら周りがお世話をしてくれますし、手紙も侍女とかに代筆頼めますしね。