八咫烏シリーズ第一部『弥栄の烏 八咫烏シリーズ6』。
いやー、すごい。すごい物語でした。前作の『玉依姫』で八咫烏と山神の世界にいちおうの完結がなされたものの、八咫烏の世界の謎はもっと深く、恐ろしいものだったのです。
『弥栄の烏』は、前作『玉依姫』と対をなす物語なので、今回は山神の話を八咫烏側からの視点で描かいています。
正直、前作で世界の謎が明らかにされたたので、そんなに書くことがあるのだろうか?と思っていたんですが…。
同じ時間軸の同じ事件なのに八咫烏側からみると、こんな展開があったのかと。阿部智里先生の見せ方の巧みさに、今回もまた驚かされました。
『弥栄の烏』あらすじ
人型をとる八咫烏が暮らす世界「山内」。そこへ八咫烏を喰らう猿が襲ってきた。
参謀となった雪哉を中心に猿との戦いの準備をすすめる八咫烏たち。しかし、山神の怒りによって山内が大災害に襲われる。山神の怒りを鎮めるため、若宮・奈月彦は神域へと向かう。
そこには人を喰らい、化け物と化した山神がいた。奈月彦は山神の怒りを鎮めるため、人身御供とされた人間の少女の世話を仰せつかる。
その一方で山神を元に戻すために山神の正体を探ろうとするうち、自分自身、「金烏」とは何なのかを自問するようになる。
一方、猿に調略された山神に仲間を殺された雪哉は、感情を抑え猿討伐に挑み…。
玉依姫の対をなす物語
今回、山神と志穂との間の事件の合間に、なぜ真赭の薄が山神のもとへ行ったのかなど、細かい事象が語られます。
また、『玉依姫』の物語が終わった後の、猿との最後の決戦が描かれていきます。そして今回、山神の怒りをかって殺された人物が誰なのかが判明します。
茂さん、澄尾…。
予想があたってしまった…。
雪哉の親友、茂丸が山神の癇癪で命を落とし、澄尾も重体。
茂さんは辛辣にみえる雪哉の気持ちを、よく掬い取ってくれていたから、茂丸がいなくなった後の雪哉が心配です。手段を択ばない冷徹な参謀と化してしまい、おばちゃん今後が心配だよ…。
※第二部『楽園の烏』ではその悪い予想があたり、雪哉があんなことになるなんて…。
金烏の正体(ネタバレ)
八咫烏が敬うべき山神は、猿の甘言により人の肉を喰らって化け物と化してしまう。
それでも山内への影響を考え、奈月彦は烏天狗とともに山神の正体(真の名)を探っていきます。その過程で真の金烏の意味を探ることにもつながっていき…。
この、真の金烏の正体というのが、ミステリでいうところの犯人捜しにあたり、核心にいたるまで幾重にも謎が重なりあっていたのです。
物語の終盤、奈月彦は金烏と山内の本当の意味を猿から告げられることになります。
実は八咫烏と猿は、今の山神が来る前まで共同で山をおさめていた女神でした。
八咫烏の女神が、山神の眷属とつがい、生まれたのが「宗家」だからこそ、真の金烏は「八咫烏の母であり父」だったのです。
猿の憎しみ(ネタバレ)
しかし、神から神の使いになった八咫烏に恨みを抱き、己の血族をも巻き込んだ猿神の復讐劇は『黄金の烏』で猿を引き込んだ犯人の独白に似ているなと思いました。
土地神としての誇りを奪われ、盟友に裏切られた恨みをずっとひきずって、念入りに山神と玉依姫の仲を裂き、八咫烏を襲い、奈月彦を追い詰めます。
謎は解かれたものの、猿の呪いにより山内はいづれ滅びの道をすすむことが運命づけられてしまいます。
女性の活躍(ネタバレ)
『烏に単衣は似合わない』以外、八咫烏がシリーズは男性中心の物語でしたが、今回はいろいろなところで彼女たちの物語も大きく展開していきます。
『玉依姫』で志穂の世話役として登場した真赭の薄と奈月彦の妻、浜木綿。
浜木綿は奈月彦のこどもを身ごもったものの、ほどなく流産してしまい、真赭の薄に側室になるように勧めます。
真赭の薄は、いがみあっていた澄尾が自分を思っていたのを知り、彼を助けるために山神のもとで玉依姫の世話役をかってでます。
今回はお嬢様だった真赭の薄の成長が目立ちました。
浜木綿も、最終的には真赭の薄の気持ちを優先させたり、滅びの道をたどる山内を背負う奈月彦に「ただの烏になったっていいじゃないか」と勇気づけます。
浜木綿と真赭の薄の友情がとてもいい。大好きだわ、このふたり。
そして気になるのが、奈月彦と浜木綿の子が女の子だったこと。姫宮だということは、土地神時代の八咫烏が女神だったことと関係するのでは…?
旧単行本の表紙の絵は土地神時代の八咫烏ではないでしょうか。平安風の衣装は山神時代のものですから。裏面には赤ん坊をだく奈月彦らしい人物が描かれ、その足元には青い朝顔が。
青い朝顔は浜木綿が奈月彦に話した「ただの八咫烏になったって生きていける」とい話とリンクする花です。
さて、これから山内の世界はどうなるのか…?第二部が楽しみです。
宗家のなりたち(ネタバレ)
読み返してみると、宗家のなりたちは不思議です。山神と共にやってきたのは、八咫烏(宗家の父)と四家の始祖となる子どもたちです。
よく考えてみると、金烏の父の妻、子どもたちの「母」はいったいどこにいるのでしょう?
新天地を探すために、妻だけは都に残しておいたのか、それとも出立以前に亡くなっているのか…?
八咫烏シリーズ感想
未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。
第一部
- 『烏に単衣は似合わない』…ゆるふわ世間知らず美少女のシンデレラストーリー?
- Audible『烏に単衣は似合わない』…そりゃこんな声で笑顔で言われたら落ちますよ…
- 『烏は主を選ばない』…ひねくれ小僧と空気読まない若君のバディ誕生
- 『黄金の烏』…人(八咫烏)食い猿がやってきた…!
- 『空棺の烏』…和製ハリー・ポッター(ただし魔法なし)
- 『玉依姫』…なんで私が異世界に?
- 『弥栄の烏』…山神さま、ちょっと落ち着いてください…!
第二部
- 『楽園の烏』…地獄のここが楽園だ。ダース・ベイダー雪斎爆誕
- 『追憶の烏』…私はただ、お慰めしたかっただけなのです…!
- 『烏の緑羽』…バブみイケメン成長ゲー
- 『望月の烏』…私、博陸侯のお手伝いをしたいのです!
- 『亡霊の烏』…紫苑VS博陸侯。試合に勝って勝負に負けた博陸侯
外伝
- 『かりんみず』…美味しいかりんみずはいかがですか?藤波さま
- 『さわべりのきじん』…虫を生のまま食おうとすんじゃねえ
- 『きらをきそう』…山内版・北斎の娘と花魁の世界
- 『烏百花 蛍の章 八咫烏シリーズ外伝1』…雪哉がセミ食ったりとか
- 『烏百花 白百合の章 八咫烏シリーズ外伝2』…きんかんを煮たりしています
幕間(外界視点からの山内)
松崎夏未さんによるコミカライズ
烏に単は似合わない
- 『烏に単は似合わない1』…圧巻の描写と詳細な設定で描かれる八咫烏ワールドの始まり
- 『烏に単は似合わない2』…姫たちの陰謀と思惑が交錯する中、ある事件が起こる
- 『烏に単は似合わない3』…桜花宮で起こった連続殺人。さらに姫の一人が心を病んでしまう
- 『烏に単は似合わない4』…陰謀と殺人の真相。その真犯人は意外な人物だった
烏は主を選ばない
- 『烏は主を選ばない1』…絶妙なキャラクターと風景描写
- 『烏は主を選ばない2』…ムチャ振り、刺客の襲来、貧民街への出向
- 『烏は主を選ばない3』…圧巻の谷間描写
- 『烏は主を選ばない4』…「あれは下賤の者だ」の意味
- 『烏は主を選ばない5』…意外な裏切り者と意外な協力者
ファンブック・イベント
- 『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』…ファンブックの電子簡易版
- 『八咫烏シリーズファンBOOK』…『空棺の烏』のキャラデザインや駆け落ちしたあのカップルのその後など裏話がたくさん
- 『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想…鬼畜作家に精神を翻弄される漫画家
- 八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023…眼福だったし阿部先生ファンには菩薩
- 阿部智里「八咫烏シリーズ」&名司生特別展2025…八咫烏シリーズと名司生さんオリジナルのイラスト展示
- 漫画版『烏は主を選ばない』3巻刊行記念スペースざっくり聞き書き…計算され尽くしたキャラ設定まじすごい

