松井今朝子さんの『吉原十二月』。吉原の一年間の行事にからめて、ふたりの花魁の半生を描きます。
大河ドラマ『べらぼう』と同時期の絢爛豪華な吉原描写も素晴らしい。
『吉原十二月』あらすじ
ふたりの異なる性格の花魁、胡蝶と小夜衣。禿時代からしっかりものの胡蝶と、のんびりとした性格の小夜衣。
美しく成長した二人はお職(トップ)を争う遊女に成長。常に競い合ってきた二人は性格も容姿も正反対で、お互いを疎ましく思っていたのだが…。
吉原の年間行事
月ごとにある吉原の行事や決め事に従って物語が進行します。中には玉菊灯籠や俄まつりといった大河ドラマべらぼうに登場された行事も。
- 正月…晴れ着の花魁道中、禿の小夜衣の芝居
- 如月…九郎助稲荷の縁日と、小夜衣の誘惑
- 弥生…胡蝶が「佐保彦」で花魁に目覚める
- 卯月…花まつりは仏の慈悲?
- 皐月…胡蝶と小夜衣の張り合いは菖蒲打ちで
- 水無月…髪洗いと垂れ髪の小夜衣
- 文月…お盆の紋日は最大のイベント。文を書いて登楼を促す
- 葉月…俄芝居で客を騙す胡蝶、しかし…
- 長月…十三夜と胡蝶失踪事件
- 神無月…花魁にあるまじき小夜衣の懐妊
- 霜月…新しい花魁に突き上げをくらう
- 師走…廓の心中事件、その真相は…
ほかにも吉原の意義として「苦界ではあるが、白飯は食える」と語っており、これもべらぼうと共通しています。
個性の異なる二人の花魁
胡蝶と小夜衣は性格も容姿も異なります。
おっとりとしたたかな小夜衣
正直、小夜衣は女からみるとイラッとするタイプです。男から見ると、ミステリアスでおっとりしてて、何考えてるかわからない。
『烏に単は似合わない』のヒロイン、あせびちゃんのようなタイプですね。
書の達人で、師匠とは書を通じた純愛を育んでいます。
実際彼女は、幼い頃から思う相手がいるにもかかわらず、客の子供を孕んでみせるなど、時に周りをあっと言わせる行動にでます。
素直な胡蝶
一方の胡蝶は、花魁には珍しく裏表のないタイプ。子どもっぽいところが玉にキズですが、気に入らない客は振る。しかし、一度深い仲になった相手には情が深い。
花魁の信条である意地と張りを持っています。特に負けん気の強い胡蝶は、ことさら小夜衣と張り合うんだけれど、小夜衣の方はのらりくらりと嫉妬をかわします。
やっぱり女側からみると、どうしても胡蝶を応援してしまうのですよ。
苦界の絆
けれど、そんなライバル同士のふたりが、ただいがみ合っていたのかといえば、実はそうでもないのです。
一方が窮地におちいると、救いの手を差し伸べたり、心配しあったりする。
共に苦界に育った女同士は、なんとも不思議な強い絆で結ばれているようで、最後には男たちをあっといわせる事件を起こしてしまいます。
いや、解決したのかな。
最後の引き際も二人らしくてかっこよかった。吉原の花魁たちは、ただただ咲いているだけじゃない。そのプライドと才能をいかし、苦界を自らの足で歩んでいくのです。
そして最後は廓中を巻き込んだ大事件と華麗な結末でした。
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