『ケルトとローマの息子』ローズマリー・サトクリフ

ケルト 小説感想

「精霊の守り人」の作者、上橋菜穂子先生が影響を受けたイギリスの作家、ローズマリー・サトクリフの『ケルトとローマの息子』。

これは、子どもに読ませるのがもったいないほど、骨太な歴史ファンタジーです。

『ケルトとローマの息子』 あらすじ

ローマ人でありながら、ケルトの氏族に育てられたベリック。周りからは「赤いたてがみ」(ローマの司令官がつける兜の色から)と差別されるが、鍛錬をつんで立派な戦士となる。

しかし、村に不作と病が襲ったことから、ベリックは「災厄を連れてきた」と、村から追放されてしまう。ベリックはローマ軍に入るため旅に出るが、よこしまな商人に騙され奴隷に身を落とす。

ブリタニア(イギリス)からローマ、ゲルマニア(ドイツ周辺)、そしてまたブリタニアへ。過酷な運命に翻弄されるベリックのたどり着いた場所は…

被支配者からの視点

サトクリフの名作『第九軍団のワシ』は、ローマ人の青年マーカスと、元奴隷のエスカの冒険譚で、征服者側のマーカス視点で描かれます。

反対に、『ローマとケルトの息子』は、征服されたブリタニアの氏族の少年、ベリックからローマ側をみています。

ローマの支配は、インフラを整備し現地の暮らしを向上させ、現地人との混血も進んだものの、やはり、支配者と被支配者の間には、大きな隔たりがありました。

しかし、ベリックは本当はローマ人の血をひいているので、物語はより複雑です。ローマとケルト、どちらにも疎まれ、裏切られたベリックは孤独と疎外感に苛まれます。

様々な人間に裏切られ、手負いの狼のように傷ついたベリックが最後にたどり着くのが、ブリタニアでした。底で出会ったのが干拓事業を行うローマ軍人・ユスティニアス。

彼もまた、つらい過去を背負った人間で、だからこそ傷ついたベリックを家族として迎え入れてくれたのでしょう。

大人が読みたい、骨太な歴史ファンタジー

ベリックが追い込まれていく様子が、とても生々しく描かれています。中でも恐ろしいのは、奴隷となってからの描写です。

奴隷の生活はベリックの自由を奪うだけでなく、徐々に奴隷生活が当たり前として、何も感じなくなっていくのです。

そして、その後のガレー船での描写は、本当にひどい。奴隷になると、人間だったものがどんどんと獣のように本能むきだしになっていくんです。

サトクリフはよくもまあ、こんな過酷な物語を、子供向けに書いたものです。しかしこれは、読んでおくべき話だと思います。そして、大人が読んでも十分読み応えのある物語です。

おまけ:食べ物表現

サトクリフは、食べ物の表現が非常に豊か。ブリタニアの丸焼きのイノシシや大鍋のシチュウ、ローマの子ヤギのミルク煮、アーモンドケーキなどの豪華料理。

どれも歴史や当時の風俗を反映したごちそうがどれも美味しそう。

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