八咫烏シリーズ9『烏の緑羽』阿部智里

八咫烏 ファンタジー

烏の緑羽』は、長束と側近の路近、新たに側近に加わった翠寛の物語。

路近の「忠誠」の理由と、翠寛の人生、そして長束の覚悟が描かれます。

今回は特に、人物描写のすさまじさを感じました。ファンタジーは世界観が重要視されがちですが、八咫烏シリーズは他の小説よりも人物をより掘り下げて表現しています。

こんなの通常の現代小説でもやらないレベルですよ。

『烏の緑羽』あらすじ

猿の襲撃から数年後。長束は自分の側近・路近の忠誠に疑問を感じ、奈月彦に相談する。すると、奈月彦から紹介された清賢という院士から、ある人物を側近にと推薦される。

それはかつて勁草院で院士を努め、雪哉との確執で左遷された翠寛だった。

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翠寛は谷間で生まれ育ち、数奇な人生を経て山内衆から院士になった男だった。若い頃には路近とも因縁を持つ翠寛は渋々と言った体で側近になることを承知。

そこから、世間知らずの長束に対し翠寛の特訓が始まった。

サイコパス路近

ここへきて、路近がただの忠臣ではなく「やべえサイコパス」だったということが判明します。
正直な感想を言うと、路近の態度には翠寛の言葉を借りるなら「反吐が出る」んですよ。

葬送のフリーレン』に出てくる魔族が「人を理解したい」と近寄りながらも、人を傷つけて反応をみるのに似ています。

物語の重要なパートをなす部分とは言え、路近が人の命を弄ぶ様子は、読んでいて本当にキツかった。普通のホラーより気持ちが悪かったです。

物語の大半は、路近の残虐性と翠寛の苦難づくめの人生(それと長束の愚痴)が描写され続けています。いい加減勘弁してくれ…と思ったところ、最後の最後にようやっと希望の光が。

ハードモード翠寛

それにしても翠寛、ただのサブキャラかと思いきや、その人生はけっこうハード。

谷間から商家へ引き取られたものの、そこでいじめられ、神官見習いになれば稚児奉公(性的奉仕)を強要される。その後は勁草院では路近に痛めつけられる。

まるで映画『ショーシャンクの空に』の主人公、アンディ並に苦労の連続です。

でも、翠寛は自分の人生を諦めず、常に前を目指していきます。その姿勢が奈月彦や長束にも伝わったんでしょうね。

赤ん坊のように純粋無垢で理想論を信じてやまない長束にはぴったりの側近でしょう。

ここからネタバレ

『烏の緑羽』はある意味、『空棺の烏』の対となるお話でした、人物名をタイトルになっているのも同じですし、勁草院も登場します。

そして、やはりところどころ「対」になっているんですよね。

翠寛と鞠里、千早と結

血の繋がらない兄と妹という設定は翠寛と鞠里、千早と結に共通します。

翠寛と鞠里は千早たちのように絆を育む時間が少なかったからか、悲劇的な結末になってしまいましたが。

翠寛と公近

おそらく『空棺の烏』に出てきた公近は年齢的に見て路近の息子と思われます。

翠寛にしたら「妹」の子のようなものだし、アホ息子ではあるものの、公近を見捨てられなかったのでしょう。

しかし、肉親の情など持たないサイコパス路近は公近をボッコボコにしています。こいつほんと、マジで狂犬だわ…。

『追憶の烏』への布石

「長束くんのはじめてのお使い」では、美丈夫のいい大人がお使いに出される姿は、なんとも微笑ましく、悲惨な前半からようやく一息ついた思いきや…。

翠寛の長束教育が功を奏してきた矢先、奈月彦が殺されてしまい、『追憶の烏』へと物語はつながっていきます。

奈月彦の遺言をめぐり、意見が割る雪哉と皇后・浜木綿。そこでサイコパス野郎・路近の真意が明らかに…。

こいつはホント、人を使って感情の実験をしているんだろうな。私は、『十二国記』の琅燦に似たものを感じるんですよ。

翠寛の説得(と路近をぶん殴って黙らせる)で、長束は強硬な姿勢を崩さない浜木綿を説得し、幼い紫苑の宮を翠寛に託します。

ここの紫苑の宮の「おじさま…」が、悲しい場面なのにキュンキュンしてしまいました。そりゃみんな、紫苑の宮のためなら命かけるよ、うん。

八咫烏シリーズ感想

未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。

第一部

第二部

外伝

幕間(外界視点からの山内)

松崎夏未さんによるコミカライズ

烏に単は似合わない

烏は主を選ばない

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