『遅番にやらせとけ 書店員の逆襲』は、書店の遅番男子バイトたちが遭遇する事件を描いています。
読んだ後に少し幸せな気持ちになれます。

『遅番にやらせとけ 書店員の逆襲』あらすじ
三軒茶屋にある爽快堂書店。遅番を務めるバイトたちは、漫画オタクの小島、ゲームクリエイター志望の吉井、アイドルオタクの島尾、元ヤンの遠藤。
彼らはすきあらば事務所でサボろうとする今どきの若者。
そんな彼らが「わけがわからない」と呆れ、時に恐れるのが最年長バイトの庄野。庄野は「なにか面白いことあった?」と聞いてくるくせに、いちいち話の揚げ足をとり、説教を始める変わった人だ。
その庄野さん、お釣りを間違えるかと思えば、万引犯の中学生に追いつく脚力を持っていて、とにかく行動が読めない。
そんな遅番では毎回、万引、深夜のポップ書き、怒涛の棚卸しにサイン会まで、必ず何かしら事件が起こるのだった。
遅番たちと謎のバイトリーダー
遅番バイトたちは、必要以上の仕事はしたがらないし、文句ばかりの割に働かない。
そんな彼らも、物語とともに成長をみせる…かと思いきや、相変わらず怠け癖は変わりません。
でも、彼らは書店で起こる事件をきっかけにして、少しずつ変わっていきます。庄野さんもです。成長というより「世界の見方を少しだけ広げた」程度なのですが。
不完全ながらも少し世界が広がった彼らの成長が、物語終盤の屋上シーンと相まって、感動を覚えます。
読者を幸福にする小説
『書店員 波山個間子』など、書店の裏側を描いた作品はどれも面白いですが、この『遅番にやらせとけ』も負けていません。
作中、登場人物の一人が「読者を幸福にする小説」について語っています。私は、本作がまさに読んで幸せになれる本だと感じました。
日常で閉塞感を感じる時、遅番たちが奮闘する姿に「もうがんばろう」って思えるのです。
胸に響くセリフ
この小説は語り口こそ明るいものの、登場人物たちの言葉がとても深くて心に響きます。
客の態度に対しては、
「ときに人は、肩に積もらせた蟠りや悔しさを、金と一緒に投げつけてくる」
本屋で働く意味について
「本屋ってのは何を売っているんだと思う?人間に必要なものを売っているんだ」
本屋の常連の老人がバイトの遠藤に
「自分の好きなものだけ見ていてもだめだ。世の中の上澄みだけをすくって、知っているふりをするのもいかんよ。」
確かに、私も苦手なものを避けて、上澄みだけの情報をすくってしまいがちです。気をつけないといけないな。
続編『早番にまわしとけ 書店員の覚醒』
その後、続編に当たる『早番にまわしとけ 書店員の覚醒』が刊行されました。登場人物や書店は異なりますが、女性が主人公の書店小説です。こちらもおすすめ。
