『火喰鳥――羽州ぼろ鳶組』今村翔吾

火喰い鳥 小説感想

火喰鳥――羽州ぼろ鳶組』は江戸時代中期、大名火消し・ぼろ鳶組の活躍を描いた小説。

これがデビュー作って、今村先生、天才すぎるだろ。『鬼平犯科帳』以来、久しぶりにハマった江戸のシリーズものです。

著:今村翔吾
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『火喰鳥――羽州ぼろ鳶組』あらすじ

松永源吾は元火消しだったが、ある理由から火消しをやめ、浪人生活を送っていた。そこへ東北・新庄藩から火消し腕をかわれてスカウトされる。

はじめは渋っていた源吾だったが、妻・深雪の説得(というか脅しに近い)により火消しの頭を拝命することに。しかし、新庄藩からの予算は二百両。

これでは道具を揃えるどころか、優秀な鳶を雇うこともできない。源吾は新しい人材を発掘するため頭取並の新之助と共に江戸の街を探し歩く。

そこで、怪我で引退直前の力士・寅次郎、軽業師の彦弥、風読みの星十郎を見いだし、火消し組の体裁を整えるものの、衣装にまで金が回らず、人々からは「ぼろ鳶」と称されることに。

それでも、命を救うことを第一に、ぼろ鳶組は江戸で起こる大火に立ち向かっていく。

負け組のジャイアントキリング

『火喰鳥』に登場する人々はみな、特殊能力を持つ一方、挫折を経験しています。頭の源吾は命を助けられなかった思いから火消しから遠ざかり、新之助は火消しだった父親と確執があって、火消しの仕事にも身が入らない。

寅次郎は実力はあったが怪我のため成績があがらず、彦弥は幼なじみのために奮闘するがうまくいかない。星十郎は火消しであった父親を軽蔑しひきこもって研究三昧。

そんな挫折や葛藤を抱えている人たちだからこそ、火消しとして活躍したのかもしれません。

そして部下からも食費を取り立てるしっかりものの源吾の妻・深雪はさながらマネージャーですね。夫や部下たちを叱咤激励して支えます。

深雪さんもまた算術の達人という特技をもっています。

消火のプロフェッショナル・火消し

一昔前の教科書や歴史の本では「江戸時代の消防は家屋を打ち壊す原始的な消火」と書かれていました。

でも、違うんですよ実は。江戸の火消しってプロフェッショナルなんです。気候と地形、町並みを把握し、風を読み、的確な消火活動を行います。

打と壊しにしても、火の勢いを読んで、どこを壊すかは経験値と気象を読む力が必要なのだとわかりました。

確かに装備やシステムは現代に比べることはできませんが、プロフェッショナルとしての技術力と救命救助の心意気は現代にも匹敵すると思います。

ネタバレ感想(未読の方は読まないでください)

物語のラスト、ぼろ鳶組は江戸の三大火事、明和の大火に挑みます。これは火薬の知識を持つ犯人の放火なのですが、裏で手を引いていたのがあの、サイコパス一橋治済です。

一橋治済といえば、よしながふみさんの『大奥』ではサイコパスとして人を殺しまくり、息子家斉を支配して栄華を極めた悪役です。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』でも、田沼意次を陥れ、邪魔な人間を毒殺しまくっているサイコパスとして描かれています。

そして、ぼろ鳶でも、田沼意次を失脚させるためだけに火事を起こすサイコパスなんですよ。もう、治済は歴史小説の新たな悪役としての地位を確立しましたね。ホント嫌いだわこの人。

今村翔吾作品感想

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