『ねむりねずみ』近藤 史恵

歌舞伎隈取 小説感想

ねむりねずみ』は歌舞伎(梨園)の世界を舞台にしたミステリ小説。
歌舞伎の演目のように一幕目、二幕目とそれぞれに趣向が変わり、最後の幕ですべての謎が明らかにされてゆきます。

著:近藤 史恵
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『ねむりねずみ』あらすじ

一幕目は歌舞伎界の御曹司・女形の中村銀弥。はある時から「ことばを忘れる」病にかかり、つぎつぎと言葉を忘れてゆく。

銀弥の妻、一子は彼を心配して気遣うが、彼女には別に恋人がいて…。

二幕目は一転して歌舞伎の舞台中に起こった殺人事件を探偵・今泉文吾と彼の友人で大部屋の女形、瀬川小菊が事件の真相を調査。

殺された人物は中村銀弥の相手役・小川半四郎の婚約者だった。そのため、犯人は当初、劇場関係者とみられていたが…

三幕目ですべての謎が解ける。関係者が一同に会して、探偵が事件の真相を語る。

厳しい梨園の世界

ミステリのトリックや展開は目新しいものではありませんし、「死体のでき方」についても本当に劇場でそんなことができるのかいな?とちょっと疑問点はあるのですが。

「梨園」という芸に生きる特殊な世界の、光と影が映し出されたようなお話は興味深かったです。

芝居の世界とその芸を極めることを第一とするならば、たとえどんな犠牲をはらっても構わないという銀弥の生き方にはあこがれもするし、「怖さ」も感じます。

不公平な世界

悲劇的な展開の中で、唯一明るく魅力的なのが大部屋の女形小菊さんです。

私はこの人が登場人物の中で一番好きです。精進のために常に女言葉を使い、たとえ端役でもプライドをもって演じている。そこには「舞台を支える」という信念がある。

今泉の助手、山本くんが

家柄で主役が決まるのは不公平だな

とぼやくと、小菊さんが

じゃあ他の世の中は公平かい?

と切り返すセリフが潔くてかっこよかった。

歌舞伎を見に行く機会があれば、主役たちを支える小菊さんのような役者にも注目したい。

近藤史恵作品感想

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