『幽霊塔』は明治32年、イギリスの小説を翻訳…というか、黒岩涙香が勝手に改変した塔を巡る冒険活劇ミステリ。
『幽霊塔』は、少年時代の江戸川乱歩や宮崎駿も憧れた小説で、後に江戸川乱歩によってリライトされ、宮崎駿の『カリオストロの城』にも影響を与えてます。
いわくつきの時計塔、宝の謎、暗号、首無し死体、からくり屋敷など、ミステリの要素がたっぷり詰まっています。
パブリックドメイン(0円)デジタル書籍版「幽霊塔」。明治時代の描写そのままなので読みづらいところも。
『幽霊塔』あらすじ
丸部道九郎はおじが買い取った「幽霊塔」と呼ばれる時計塔を視察に行くと、そこには日影色(灰色)の着物を着た美しい女性・松谷秀子がいた。
秀子は幽霊塔の内部に詳しく、道九郎にいろいろなアドバイスを行い去っていった。
やがて幽霊塔に住まいを移した道九郎たちであったが、それは様々な謎と恐ろしい出来事の始まりであった。
果たして「怪美人」秀子の正体は、また幽霊塔にまつわる宝の謎は…。
美人の謎、宝の謎、怪しげな洋館、暗号、いわくありげな人物など、ミステリの要素がふんだんに詰め込まれた作品です。
江戸川乱歩のリライト版の「幽霊塔」。物語自体を楽しむならこちらがおすすめ。(舞台は日本になっている)宮崎駿の豪華イラスト解説入りです。
明治の探偵小説
現代の我々から見るとトリックは稚拙だし、ご都合主義的な展開があるものの、謎が謎を呼ぶ展開にページをめくる手がとまりませんでした。
原作となった英語の小説から、暗号部分を漢詩風にアレンジしたり、随所に黒岩涙香の言葉のセンスが光ります。
ひとつの章ごとに山場があり、次への展開が気になるようなつくりになっていたり。
嗚呼、面倒な明治の描写…
物語は面白いのですが、なにせ明治32年の小説なので、台詞回しや表現が現代とまったく違って読みづらいことといったら…!
「しますのサ」「シテ見ると」など、芝居がかった台詞回しや現代では使われない表現など、いちいち頭で現代の表現に変換しながらでないと先に進めず大変でした。
話の展開が面白いので早く読みたいのに、描写がそれを許さない…。
あと、「舞台がイギリスなのに登場人物が日本名」なのには参りました。
涙香の時代は名前や周囲の描写を日本風にアレンジしないと読者が想像できなかったのでしょうが、現代では逆にそ場面や人物が想像しづらく、読みながら「どっちやねん!」とツッコミをいれながら読んでいましたよ…。
- 「盆栽室」…温室?イギリスには盆栽ないやん…
- 「衣嚢」…ポケットのことらしい。わからん…
- 「夫で」…それで。読めん!
- 「了う」…しまう。終了→終わり→終う→しまう…
『幽霊塔』と『カリオストロの城』
『幽霊塔』を読んでいて「あれ?この設定、カリオストロの城みたいだな…」と思っていたら、調べてみると宮崎駿は幽霊塔からインスピレーションを受けて『カリオストロの城』を作ったのだそう。
宝が隠された時計塔、詩文のような暗号、機械のような時計塔内部、骸骨に部屋の中に落とし穴など、カリオストロの城でみられた設定が随所に出てきます。
少年時代の宮崎駿が、いかにこの小説に魅入られていたかがわかります。