『月の影 影の海 上』十二国記1 小野不由美

麒麟 Audible

月の影 影の海』を久しぶりに再読。これまでの読書では結構ひどい話も読んできたので、きっと普通に読めるはず…。

しかし、やはり辛すぎました。心を紙で薄く切られ続ける感覚です。

※再読のためネタバレを多く含みます。

『月の影 影の海 上』あらすじ

ある日、中嶋陽子は学校で不思議な男・ケイキに強引に連れ去られる。逃亡中、異形の化け物が襲いかかり陽子はケイキに脅されながら、彼の渡す剣で化け物と戦う。

ケイキとそのしもべ達に拘束され、陽子は海に浮かぶ月の影を渡って異世界へ。そこでまた化け物(妖魔)に襲われ、ケイキと離れ離れに。

見知らぬ異世界での投獄、人身売買、盗難。人に騙され、蔑まれる陽子。その合間も妖魔は容赦なく彼女を襲ってきた。

異世界では誰も信用できない状況の中、陽子は追い詰められていく…。

異世界は甘くない

何度も言いますが、十二国記は甘くない。

  • 不遜で強引なしもべに、いきなり剣で魔物を倒せと無茶振りをさせられる
  • 何の情報ももたないまま、異世界に流される
  • 異世界では「災害を呼ぶ」と言われ投獄、護送
  • 親切な人に出会ったと思ったら女郎屋に売り飛ばされそうに
  • 蒼猿から執拗な自殺教唆を受ける

チートも知識もすべて蓄えて無双状態、そうした最近の異世界ものではありえない展開です。

でも自分に都合の良い世界なんて、本当はあるわけないのですが。

今の異世界転生は「異世界ならきっと無双」という理想が肥大しすぎている気がします。

90年代の生きづらさ

剣から幻影をみせられる陽子。

そこには陽子をいいように利用したのに、自分のことを悪く言うクラスメイトや、「いい子」にならなかった陽子への絶望と怒りをあらわにする両親が映っていました。

陽子は元の世界でどれほど孤独で、周囲に理解されていなかったかを痛感します。

まるで『海神別荘』のヒロインのようです。彼女もまた、故郷の人々から異形として恐れられ、嫌われましたから。

この物語が描かれた90年代はまだ、昭和の価値観がはびこっていましたし、偏見や差別も横行していました。

陽子は髪が赤いというだけで「不良」だと思われたり、「女の子は従順で女らしく」「勉強よりも家事」という偏見と同調圧力を受けていました。

この価値観の押し付けは昭和生まれの私も経験があり、当時を思い出して苦い気持ちになりました。

仏教の苦行のような上巻

陽子の苦難はまるで仏教の苦行のようなんです。お釈迦様も苦行中、断食や悪魔(マーラ)の誘惑で肉体も精神も極限まで苦しんだそうですから。

マーラには「死に至らすもの」の意味があり、まさに蒼猿は、陽子を死に誘惑するマーラのような役割をもっています。

作者の小野主上は仏教を学ぶ大谷大学出身なので、仏教的なモチーフを取り込んだのかも…。と、今になって思い至りました。

妖魔に襲われ、蒼猿に責められ、肉体的にも精神的にも極限まで責めたてられる陽子。どうか早く地蔵菩薩(楽俊)に出会えますように…。

Audible版『月の影 影の海 上』

朗読で聞くと、蒼猿の不気味さが一層際立ちます。メンタルが弱い時に聞くと、本当に辛くなるので注意が必要。

それだけ、臨場感があって物語に入り込みやすい。陽子の成長とともに声も少しずつ変わっていくのもすごい。

『月の影 影の海 上』はオーディオブック大賞2025準大賞を受賞しています。

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陽子と泰麒

同じく胎果として異世界に生まれ育った陽子と泰麒(高里要)。元の世界で泰麒は恐れられ、陽子は疎んじられていました。

最初、周囲の人々の陽子への態度は、周りの無理解によるものだと思っていました。

でも、もしかしたら陽子は自分がここでは異質な存在だと、本能的に感じていたのかもしれない。

だから、クラスメイトや両親、教師、誰にでも「いい子」を演じていたのかも…と思うのです。

本来、あちらとこちらは、交わってはいけないものですから。

著:小野 不由美, イラスト:山田 章博
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パワハラ上司、景麒

景麒の陽子に対する態度がひどすぎる。説明はしない、それなのに無理やり学校から連れ出す、無理やり妖魔と戦わせ、パニックになった陽子にひどい言葉を浴びせかける。

あなた、本当に仁の獣なんですか?

態度だけ見るとまるで私の元パワハラ上司みたいですよ…。

舌打ちをするような顔で

「まったく頑迷な」

「お泣きになっている場合ではない」

「私とて、こんな主はまっぴらだ」

と言い放つ始末。

この景麒の仕打ちもまた、パワハラ上司を思い出して辛かったなあ…。もうちょっと説明しろよ、ほんと。

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