『風の海 迷宮の岸』を読むと、泰麒の人生の中で、ここが一番幸せだった時かもしれない。
このあとに彼の運命を思うと、そう思わずにはいられません。
十二国記とは
十二の国からなる異世界。そこでは生き物は卵から生まれる。それぞれの国に王がいて、王は麒麟が選ぶ。麒麟とは仁のけもので、人にも獣にも姿をかえられ、世界の中心部に位置する黄海で生まれる。
ときおり「触」と呼ばれる突発的な嵐により、卵は異世界「蓬莱(日本)」「崑崙(中国)」に流される。
『風の海 迷宮の岸』』主人公・泰麒も、卵のうちに「触」で「蓬莱」流されてしまいます。
『風の海 迷宮の岸』あらすじ
高里要は祖母の折檻で出された冬の庭で、白い腕に引かれて異世界にやってきた。
蓬山と呼ばれるその場所で、自分は本当は「こちら」で生まれた戴国の「麒麟」、泰麒であると聞かされる。
「あちら」では、家族に疎まれ、周りとうまく馴染めないこどもだった泰麒は、すぐにこちらの世界に馴染んでいった。
しかし、麒麟としての能力が開花せず、周囲の期待に応えられないことに悩んでいた。
無情にも月日は流れ、黄海には選定を受けるべく昇山者たちが集まってくるが、泰麒はまだ、どうやって王を選ぶのかもわからないままだった…。
十二国記は甘くない
最近のラノベでは「異世界に転送、または転生、チート能力で成功」が流行りです。
自分とは何者なのか、もっとふさわしい場所があるのではないか。誰もがそう思い、自分の(都合のいい)居場所を追い求めます。
しかし、十二国記は甘くない。
「自分の居場所」は、選ばれたものにしか用意されておらず、その他の人間は異世界で苦労を強いられます。
一方、王や麒麟など「選ばれし者」が楽をできるかというと、そうはいかないのです。
十二国では「選ばれし者」なりの責務を、まったくの予備知識のないところから始めなくてはなりません。
責務を負わされるのに、そのすべがわからない。泰麒はそこで悩み、自分の判断に苦しみます。
けれど、選ばれなかった者はをひたすらそれを求め、選ばれし者に嫉妬する。
『風の海 迷宮の岸』と対をなす、蓬莱側からの視点で描いた『魔性の子』は、「選ばれし者」と、そうでないものの対比が描かれていてこちらもおすすめです。(ホラーですけど)

愛しいこども
読み返してみて、結局みんなが泰麒のことが大好きですね。世話をする女仙たちはもちろん、昇山者たち、あの仏頂面でツンデレ麒麟の景麒まで。
景麒の無愛想っぷりを心配した玄君に「景台輔は最初からお優しかったです。」って…!
ああそりゃみんな泰麒のこと好きになるに決まってる…!
景麒なんて『月の影影の海』で主人公の陽子を何の説明もせず異世界に拉致ったり、文句やため息ばかりのくせに…!
それなのに、泰麒に対しては自分の言葉の足りなさを詫びています。
泰麒は自分を至らないものだと感じますが、その素直さ、正直さこそが、後に彼のために十二国を巻き込んだ救出劇につながったのでしょう。
これで泰麒が性格の悪い子どもだったら、きっと流されたまま、あちらで亡くなっていたでしょうしね。
- 『魔性の子 十二国記 0』
- 『風の海 迷宮の岸 十二国記 2』