『国宝 上 青春編』吉田修一

女形 小説感想

映画で話題の『国宝上 青春編』をAudibleで聞いてみたところ…いやすごいわこれ。尾上菊之助さんの朗読が素晴らしいし物語がもう、とにかくすごい。

ここまで没入できた小説は久しぶりかも。

著:吉田 修一
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『国宝 上 青春編』あらすじ

長崎のヤクザの息子・喜久雄は闘争で父親を亡くす。

やがて喜久雄は芸を見込まれ、三代目花井半次郎に引き取られる。任侠の世界とは真逆の歌舞伎界へ。才能を認められ、舞台で輝く喜久雄。

しかし、二代目半次郎が交通事故にあい、跡目を実施の俊介ではなく喜久雄に二代目半次郎を継がせると宣言する。

その後俊介は出奔し、迎えた襲名披露、しかしまさにその時、長年の苦労がたたり師匠が吐血。その名跡と師匠の借金を抱え、仕事を選ばず働くが、いじめやバッシングが喜久雄を襲う。

一方、歌舞伎の興行会社・三友の社員である竹野が場末の劇場で踊る俊介を見つけ、その復活を後押しするが、それは喜久雄を追い詰めるものだった。

禍福は糾える縄の如し

「禍福は糾える縄の如し」とは、作家の向田邦子さんが好んだ言葉です。『国宝 青春篇』でもまさに、撚り合わせた縄のように幸不幸が喜久雄と俊介へ交互にやってきます。

まず、冒頭。昭和の任侠映画のような殴り込みから始まり、雪の上で血が飛び散る描写はまさに映画のような美しさです。

そこから、歌舞伎の世界へ物語はシフトしていき、華やかな歌舞伎の世界で活躍したと思えば、一転。泥水を啜るような逆境に。

血筋があっても芸がなければ世に出れないし、芸があっても、血筋の後ろ盾がなければ成り立たない。そんな厳しい世界に徐々に狂っていく喜久雄と俊介の様子は読んでいて辛かった。

国宝 下 花道編

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昭和の芸能界

昭和生まれのおばちゃんにとっては、昭和の芸能界の描写がとても懐かしく感じました。芸能人とヤクザとの付き合いも公然の秘密だったし、スキャンダルもおおらかで破天荒。

吉田修一先生は『国宝』に虚実を入り混ぜた昭和の芸能人やエピソードを登場させています。元ネタがわかってほくそ笑んだり、「ああ、こんなスキャンダルあったなあ…」と懐かしんだり。

喜久雄が出演した映画の元ネタはたぶんこれかも。、喜久雄が稽古時間が増えて喜ぶシーンは十八代目中そして村勘三郎さんのエピソードからだと思う。

歌舞伎のことをもっと知っていれば、もっと細かいエピソードが拾えたかもしれない。残念…。

Audible版『国宝』

『国宝』のAudible版は歌舞伎俳優の尾上菊之助さんが声を当てています。長崎、大阪、そして東京の方言を見事に使いこなしています。

歌舞伎のセリフ回しはまさに圧巻。耳がゾクゾクしました。この物語を聞くためだけにAudibleに入る価値があると思います。

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映画『国宝』の感想はこちら

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