『GO』金城一紀

線路 青春
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金城一紀さんの『GO』は在日コリアンの少年・杉原の暴力と恋、葛藤の青春を描いた小説。20年ぶりに再読しても色褪せない物語の力に惹きつけられました。

2000年直木賞受賞作。

『GO』あらすじ

「広い世界を見るんだ。」
在日コリアンの少年、杉原はそういって朝鮮学校から日本高校へ進学した。自分のアイデンティティを探しながらケンカに明け暮れる日々を過ごしていた杉原。

ある日パーティーで知り合った不思議な少女、桜井に魅かれ、恋に落ちる。

著:金城 一紀
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国籍とアイデンティティ

私は普段、自分を取り巻く国や環境について、特に考えることなく生活しています。でも、杉原は子供のころから差別を受け「自分は何者なのか」を突きつけられています。

杉原はそんな激烈な環境下で進化や遺伝、哲学などの小難しい本と、オヤジ仕込みのボクシングで武装し、まわりの世界へ戦いを挑んでいくのです。

でも、その戦いは無傷ではいられない。自分自身も深く傷つくこともある。

意外だったのは初めて桜井と結ばれる夜のシーン。杉原は自分の出自を話すけれど、桜井の杉原への拒絶の言葉は実に単純で陳腐でした。

これまでずっとカッコつけてて、いい女だった桜井があんな言葉を吐くのは正直驚きました。

カーテンコール」という映画でも、好きだった在日の男の子誘われたのに、主人公が急に「怖くなって」約束の場所に行かなかったというエピソードがありました。

在日に限らず、自分所属するコミュニティー以外の人と交わるのは、勇気のいることなのかもしれません。一歩踏み出してしまえば、案外簡単になのかもしれませんが。

親友の不慮の事故死、恋人の裏切りなど、さまざまな困難にぶちあたるけれど、杉原は戦うことをやめないんですね。

ラストがまた、映画のシーンみたくてかっこいいんですよ。あの後、どうなるんだろうって思わせる余韻がのこるのもまた映画のよう。でも、杉原ならきっと大丈夫。

24年めの『GO』

『GO』が書かかれてから20年以上。今回、久しぶりに読み返してみると、日韓を取り巻く状況が杉原の時代とは大きく変わっているのに驚きました。

今や韓流ブームは勢いを増し、韓国でも日本文化がブームに。

テレビでは韓国人と日本人の恋愛ドラマが「当たり前に」放送され、朝鮮籍の在日コリアンが韓国への入国制限の緩和される一方で、北朝鮮はさらに多くの「人工衛星」を送りつけて来ています。

そんな2024年、中年になった杉原は今、どこにいて、何を感じているんだろう。彼が当時感じていた怒りや葛藤にどうやって落とし前をつけたのか。

できることなら、今の杉原の物語を読んでみたい。あれから彼は国境線を消すことができたのかな?

映画化された『GO』も当時の映画賞を総ナメにしていましたね。

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