八咫烏シリーズ外伝『まつばちりて』。本編『烏は主を選ばない』の登場人物・松韻の物語です。

『まつばちりて』あらすじ
八咫烏の世界「山内」でも下層の「谷合」。娼家で生まれた「まつ」は女郎になる運命を背負った少女だった。
しかし、その才を見出されて金烏の正妃・大紫の御前に見出され朝廷で働く「落女」となるよう教育を受ける。
「落女」とは女の戸籍を捨て、男の名で務める官吏のこと。
やがてまつは松韻と名を変え、大紫の御前に使える落女として出仕する。
しかし、朝廷には彼女に対抗する蔵人・忍熊がいた。
ことあるごとに対立しつつも、お互いの才覚を認め合うふたりだったが、ある時忍熊からの「松韻を還俗させ、わが妻にしたい」と驚くべき申し入れにより、松韻の運命は大きく変わっていくことに…。
声に出さない、大人の恋愛
これまでの外伝は若者たちの片思いや友情、あるいは家族の物語であったのですが、これは大人の濃厚な愛の物語です。
松韻は大紫の御前派、忍熊は敵対する派閥。愛の言葉など交わしたことがない、決して交わらない松韻と忍熊の愛はだからこそ濃密で美しくもあり、そして悲しくもあります。
相手の書く文字の美しさ、力強さに惹かれたり、対立をしつつも一定の安定感を保っている関係は、声に出してしまっては成立しないのかもしれない。
松韻が窮地に陥った時、忍熊がとった行動はほかの誰にもわからなかったけれど、松韻にだけは伝わっていた。だからこそ松韻も、その愛に応えたのでしょう。
大人の悲恋は美しく、悲しかったのですが、欲を言えばもっと朝廷でのエピソードや、2人の関係をもっと書いておいてほしかったかな。
短編だから仕方がないのだけど、後半ちょっと性急過ぎる気も…。

八咫烏シリーズ感想
未読の皆さまには、まず第一部からお読みいただければ幸いです。『黄金の烏』までがアニメ化されています。各巻の概要と感想をまとめるとこんな感じです。
第一部
- 『烏に単衣は似合わない』…ゆるふわ世間知らず美少女のシンデレラストーリー?
- Audible『烏に単衣は似合わない』…そりゃこんな声で笑顔で言われたら落ちますよ…
- 『烏は主を選ばない』…ひねくれ小僧と空気読まない若君のバディ誕生
- 『黄金の烏』…人(八咫烏)食い猿がやってきた…!
- 『空棺の烏』…人材育成、和製ハリー・ポッター(魔法なし)
- 『玉依姫』…なんで私が異世界に?
- 『弥栄の烏』…山神さま、ちょっと落ち着いてください…!
第二部
- 『楽園の烏』…地獄のここが楽園だ。ダース・ベイダー雪斎爆誕
- 『追憶の烏』…私はただ、お慰めしたかっただけなのです…!
- 『烏の緑羽』…バブみイケメン成長ゲー
- 『望月の烏』…私、博陸侯のお手伝いをしたいのです!
- 『亡霊の烏』…紫苑VS博陸侯。試合に勝って勝負に負けた博陸侯
外伝
- 『かりんみず』…美味しいかりんみずはいかがですか?藤波さま
- 『さわべりのきじん』…虫を生のまま食おうとすんじゃねえ
- 『きらをきそう』…山内の北斎父娘
- 『烏百花 蛍の章 八咫烏シリーズ外伝1』…雪哉がセミ食ったりとか
- 『烏百花 白百合の章 八咫烏シリーズ外伝2』…きんかんを煮たりしています
幕間(外界視点からの山内)
松崎夏未さんによるコミカライズ
- 『烏に単は似合わない』…四巻の一コマが特にヤバい
- 『烏は主を選ばない1』…絶妙なキャラクターと風景描写
- 『烏は主を選ばない2』…ムチャ振り、刺客の襲来、貧民街への出向
- 『烏は主を選ばない3』…圧巻の谷間描写
- 『烏は主を選ばない4』…「あれは下賤の者だ」の意味
- 『烏は主を選ばない5』…意外な裏切り者と意外な協力者
ファンブック・イベント
- 『羽の生えた想像力 阿部智里BOOK(電子書籍)』…ファンブックの電子簡易版
- 『八咫烏シリーズファンブック』…読めばだいたいのことはわかる
- 『追憶の烏』ネタバレトークイベント感想…鬼畜作家に精神を翻弄される漫画家
- 八咫烏シリーズ展覧会&トークショー2023…眼福だったし阿部先生ファンには菩薩だった
- 漫画版『烏は主を選ばない』3巻刊行記念スペースざっくり聞き書き…計算され尽くしたキャラ設定まじすごい