戦前、魔都と呼ばれた上海の街を舞台にした『月下上海』。
悲しい過去を背負って上海へ渡った財閥令嬢の女流画家。彼女が陰謀に巻き込まれながらも、持ち前の才知で時流を生き抜いていく物語です。
老上海の歴史を知らなければ面白い
戦前の老上海は、秘密結社や犯罪組織、美しい建物の裏に阿片窟など、清濁入り交じる、恐ろしいけれど魅力的な都市でした。
上海そのものが下手なドラマより面白い舞台装置なんです。
だから、そんな老上海には、自ずとスパイやら国境を超えた悲恋やら地下活動などのサスペンスや悲劇を求めがちなんです私。
でも、「月下上海」にはそうした非日常的なドラマティックさはなく、上海を舞台としながらもメインは多江子と周りの男達の愛憎の物語でした。
多国籍な人々、スパイや秘密結社が混在する蠱惑的な魅力…。そうした老上海の歴史を知らなければ面白かったかも。
前半はサスペンス、後半は昼ドラ
憲兵の槇に半ば強引に中国人資産家・夏へのスパイ活動を強要される多江子。仕方なく夏の家を訪れていくうちに、夏に特別な感情を抱くようになり…。
前半では、多江子の過去の悲しい事件が描かれ、スパイ活動など大掛かりなサスペンスへの展開の予感と、これから一体、どんなドラマチックな展開が待っているのかとおもいきや…。
しょせん、多江子は素人スパイですし、たいした効果は得られません。そこからは陰謀やサスペンスは姿を消し、多江子と周りの男たちとの昼ドラ的な愛憎劇が展開されます。
多江子の周りには、元夫、憲兵、中国人実業家、抗日運動家の学生、父親の部下、幼なじみなど、いく人もの男たちが集まってきます。
でも、人数が多いので各人のエピソードが薄くなってしまっていました。もう少し、ページ数があったら、各人の多江子との関わりが掘り下げられたかもしれないのが残念。
モヤモヤしたこと
文中に「絆創膏」って表現がでてきます。絆創膏って日本では戦後に発売されたと京極夏彦の小説で書かれていたんです。
確かに、外国もののバンドエイドは上海にはあったかもしれないし、憲兵の槇やセレブの多江子なら、楽に手に入るのかもしれないけれど。
この当時、絆創膏が普通にあるように感じられちゃうような表現なんだよなあ。
出版社には校閲という、考証と文章のスペシャリストがいるのだから、もう少しわかりやすくアドバイスしてくれればいいのに…。

