冠婚葬祭をテーマに、6人の作家が描いたアンソロジー『私たちの特別な一日』。SFやミステリなど、それぞれ個性的な視点から冠婚葬祭を描いています。
『もうすぐ十八歳』 飛鳥井千砂
「成人年齢18歳引き下げ」をテーマにした物語。
18歳で妊娠、結婚した主人公。過去の辛い経験から、職場の人に自分のことを話せないでいた。やがて彼女の家の事情が明らかになっていく。
義母とも仲がよく、若くして子どもを産んで幸せに見える主人公でしたが、若い出産であらぬ誤解や偏見に悩まされます。
さまざまな事情がある中で、それでも家族が仲がいいのが救いになった物語でした。
『ありふれた特別』 寺地はるな
成人式の会場に向かうまでのドタバタ劇と、男女三人の幼なじみの思い出が交錯する物語。
成人式当日、知り合いの娘を会場に送る予定だった主人公。しかし娘が「ママの指輪がない!」と騒ぎ出し、探す羽目に。果たして会場には間に合うのか。
2つの時間軸を行き来しながら成人式のドタバタと友情が描かれます。意外などんでん返しもありミステリのようにも読めて楽しかった。
『二人という旅』 雪舟えま
SFで描く不思議な結婚の話。「家読み」という職業のシガ、その助手でクローンのナガノ。「家読み」とは旅をしながら家の声を聞き、依頼主に伝える仕事。
ある時シガは打ち捨てられた神殿に赴き、その声を聞く。すると、かつて神殿に祀られていた女神から祝福をうけ、二人は結婚する。
なんとも不思議な世界観の物語でした。男性同士の結婚なのでBLっぽくもありますが、世界観が先行するのであまり性別は関係しないかも。
『漂泊の道』 嶋津輝
3つの葬式から女性の人生が垣間見える物語。主人公が葬儀で出会った喪服の女性。複雑な過去を持つ女性の喪服は美しく、その人に似合っていた。
短い話なのに長編を読んだような満足感があります。
「喪服」をテーマにしていますが、時代によって変わっていく葬儀の形式や、キャリアウーマンの主人公の転落と再生など、エピソードにリアリティがあって読み応えがすごい。
さすが嶋津輝さん、葬式を悲しみ以外の感情や描写で表しているのが新鮮でした。
『祀り(まつ)の生き物』 高山羽根子
お祭りで売っている不思議な生き物の話。毎年、祖母の家の近所の神社でお祭りに行っていた主人公。しかし祖母からは「生き物を買ってきてはいけない」と言われていた。
でもある時、お祭りで「南洋の妖精」と書かれた出店のガラス瓶に入った生き物を買ってしまう。
果たして「南洋の妖精」とはなんだったのか、祖母の家の秘密とは…。謎が解明しないところがちょっと不気味で面白いお話でした。
『六年目の弔い』町田そのこ
夫の死後、娘がいたことを知らされ、ショックを受ける主人公。その娘もまた、父親がいることを死ぬまで知らされなかった。
喪失感とやりきれなさを抱えた主人公。夫の娘がお盆の時期に訪れるようになり、年に一度、二人は悲しみを分かち合いながら傷を癒やしていく。
悲しみからの再生がテーマですが、こちらもまた、謎解き要素のあるお話です。
冠婚葬祭をテーマにした作品
こちらは直木賞作家・中島京子さんによる冠婚葬祭をテーマにした短編集『冠・婚・葬・祭』。人の縁の不思議さが描かれています。