『桃源郷の短期滞在客』は夏休みに都会のホテルで過ごすお話。といっても現代の話ではありません。
舞台は今から100年前のニューヨーク。
「最後の一葉」や「賢者のおくりもの」で有名なO・ヘンリの短編集の中の物語です。
『桃源郷の短期滞在客』あらすじ
都会のホテルで静かにバカンスを楽しむ妙齢の女性。その容姿と立ち振る舞いから、高貴な人物ではないかと宿泊客のうわさになっている。
ある男性が意を決して彼女に話しかけてみると、実は、彼女には資産があるわけではなく、毎日必死で働いて貯めたお金でわずかなバカンスを楽しんでいる「働く女性」だった。
男は彼女の告白を聞いても動じることなく、彼もまた自分の秘密を打ち明ける…。
夏になると、読み返したくなる物語
快適な空調のホテルでのんびり過ごす。人が多い観光地にいくより、よほどリラックスできそうです。
彼女の正体がわかったあと、彼が最後に彼女をコニーアイランドに誘うのですが、コニーアイランドは当時の庶民が手軽に遊べるスポットなんですね。
ちょっと背伸びしたバカンスと肩肘はらないデート。100年前も今も、働く女性の楽しみは変わらないのかもしれません。
夏になると、読み返したくなる物語です。
1900年台初頭のニューヨークでは、セレブの夏の避暑は避暑地よりも、都会のホテルが好まれたようです。その頃、ニューヨークのホテルでは空調設備が普及し始めたそうです。
そのため、混雑する避暑地にいかなくても快適だったのでしょう。社交も必要ありませんしね。
都会のホテルは誰にも知られない、隠れ家のような場所だったのでしょう。
O・ヘンリとニューヨーク
また、物語に登場するコニー・アイランドは、ニューヨークにある観光地。当時から庶民向けの娯楽施設でした。初めてのデートにも、気軽に行ける場所だったのでしょう。
O・ヘンリの短編の中では、コニー・アイランドはよく登場します。玉の輿を夢見るショップガールが男を振った理由が「コニー・アイランドでデートしよう」と言われたからでした。
セレブなら、もっといいところに連れて行ってもらえると思ったのでしょうね。