『春、戻る』瀬尾まいこ

春、戻る 日常系
春、戻る

瀬尾まいこさんの『春、戻る』は、主人公のもとへ突然、「兄」と名乗る年下の男性が現れるという、突飛な展開からはじまります。

果たして彼の正体は何なのか、目的は?

日月
日月

知らない人から突然、兄って言われたら、私なら通報するな。

『春、戻る』あらすじ

結婚を控えたさくらのもとへ、ある日「兄」と名乗る見知らぬ若い男がやってくる。不思議なことに彼は36歳のさくらより年下で、なぜかさくらの結婚のことや、住んでいる家まで知っていた。

無邪気で人当たりの良い「おにいさん」のペースにのせられて、さくらは「おにいさん」に婚約者の山田さんを紹介することになってしまう。

しかし山田さんは何故か「おにいさん」をすんなり受け入れてしまう。そこから年下の兄と妹、婚約者を交えた不思議な交流がはじまるのだった。

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見知らぬ「兄」の存在

なんだかホラーやサスペンスのような不思議な話ですが、瀬尾まいこ作品では怖い展開にはなりません。

しかし、自分の情報を明かさないのに、いきなり兄とか言われても怖いので、私なら通報します。でも、さくらも周りの人たちも「おにいさん」を受け入れていくのです。

山田さんはおにいさんのことを「さくらさんを大切に思っているから」と。確かに、愛情が斜め上すぎて、はた迷惑なおにいさんですが、さくらへの無償の愛情は感じるんですよね。

でも、ストーカーされたり、強引に物事を進める年下の兄がいたら、やっぱり私は嫌かな…。

新しい家族のかたち

瀬尾まいこさんの作品にはよく「血縁」以外で結びつく家族が描かれます。『そして、バトンは渡された』の森宮さんと優子は血の繋がりはないけれど、本当の親子以上に仲がいい関係です。

優しい音楽』の『ガラクタ効果』では、カップルと元大学教授が擬似的な家族関係をつくっています。

瀬尾まいこさんの描く家族というのは、血縁でも血縁以外でも「お互いを大切に思う人同士のコミュニティ」なのでしょう。

特に日本は血縁や家を重視しがちです。でも、みんなが幸せなら、どんなかたちの家族でもいいのではないでしょうか。もともと夫婦も他人ですしね。

愛おしい日常の食事

『春、戻る』の中では、さくらと母、妹のやよいが3人で食事をするシーンがあります。父親の命日にうどん屋で毎年、父親の思い出話をします。

「思い出は正確な思い出じゃなくていい。家族でこうした思い出話ができることが大切だ。」と、さくらの母が言うのですが、本当にそうだなあと。

みんなで楽しく食事をして、思い出を語ることが故人を悼む最良の方法なのかもしれません。

関西のうどん屋さんはうどんの他に丼ぶりもあって、気楽な外食の定番なんですね。『おしまいのデート』の『ランクアップ丼』でも丼ぶりを食べていましたっけ。

よくある食事の光景なのだけど、それがとても愛おしいんです。

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