田辺聖子さんの『朝ごはんぬき?』は、女流作家とその家族の様子を、秘書である主人公の視点で描いたコメディタッチの小説です。
女流作家とその家族の一風変わった生活がユーモアたっぷりに描かれていて、読んでいると思わずニヤリとしてしまいます。
『朝ごはん、ぬき?』あらすじ
交際していた男から「俺、結婚すんねん」と言われ、やけっぱちになったマリ子。会社もやめ、ツテをたよって女流作家・秋元えりか先生の元で住み込みのお手伝いをすることに。
ところがこのエリカ先生、女流作家なのに才媛とは程遠く、小太り、オカッパ、白塗りの大阪のおばちゃん。締め切り前はイライラしはじめ「書きもんの神様」の降臨をひたすら待つ。その間、マリ子は編集者の電話対応に追われることに…。
また、えりか先生は、若くてイケメンの編集者・ノボルくんに熱をあげており、彼が来る日は朝からそわそわ、白粉をぬりたくり、喜々としてでかけてゆくのだった。
どこか憎めない人々
マリ子さんが遭遇するえりか先生の周りの人々は、一風変わっています。
夫の井氏は、えりか先生が家事も子育てもまったくせず、まがまま放題でも、どこかひょうひょうとしいてマイペース、自分の趣味に没頭しています。
一方、娘のさゆりちゃんは両親とほとんど会話をしないし、カップラーメンばかり食べています。
外から観ると「家庭崩壊か?」と思うのですが、でもこの家族、これはこれで、バランスがとれている気がするんですよね。
えりか先生も土井氏のことを「おっさん」呼ばわりするし、ほとんど世話をやかないんだけど、土井氏が倒れた時は、驚くほど取り乱しましたしね。
えりか先生はものすごくわがままなのだけど、風貌もふくめ、どこか憎めないんですよね。実際に近くにいたら嫌だけれど。
男女逆転家庭
物語の舞台は昭和50年代。まだまだ「男は仕事、女は家事」が当たり前だった時代です。
そんな時代にえりか先生のように家事も子育てもせず、いばり散らしたり、若い男に夢中になる女性を堂々と描いてみせたところが痛快でした。