『おしまいのデート』は、普通の人々の、よくあるようなお話です。けれど、瀬尾まいこさんが描くと、どのお話もいとおしく、切なくなります。
瀬尾まいこさんは、私たちが邪険に扱ってしまう普通の日常を、丹念に拾い集めて磨き上げ、私たちの前に見せてくれます。だからどの物語も愛おしいんです。

登場人物がみんな優しくて癒やされました
『おしまいのデート』掲載作品
・別々に住んでいるおじいちゃんと孫の「おしまいのデート」
・卒業した教え子と教師が、月に一度定食屋で玉子丼をたべる「ランクアップ丼」
・今まで全く話したことのない同級生男子に誘われ「デート」をすることになった「ファーストラブ」
・公園に捨てられた犬をめぐる男女の不思議な交流「ドッグシェア」
・シングルファザーの父兄と恋仲になってしまった幼稚園の先生と、園児のかんちゃんの「デートまでの道のり」
私が特に好きなのは、不良の男子学生が先生と一緒に玉子丼を食べる『ランクアップ丼』です。
ランクアップ丼
ランクアップ丼あらすじ
不良の三好は教師の「上じい」と月に一度、親子丼を食べる。それは三好が卒業して、就職しても変わらず続けられた。最初のうちは上じいがおごり、就職してからは三好がおごる。
そんな不思議な食事会が月に一度行われ、とうとう三好が奢られた分を完済する日が着たのだが…。
ランクアップ丼感想
不良を更生させる、といった大仰な話ではありません。ただ玉子丼を食べながら話すうちに、二人にすこしずつ絆ができていく感じがとてもいい。
ラストの展開には不覚にもちょっと泣けてしまいました。飄々とした上じいは、最期までその姿勢を崩さずに三好くんと接していたんですね。
どの話も「よくある話」と片付けてしまえそうな話です。でも、本当は「よくある話」なんてないのです。
愛おしい「よくある話」
いったい、私たちはいつから愛おしい日常を「よくある話」として括って大切にしなくなったのでしょう。
大事な人とご飯を食べる、何かをシェアする。「よくある話」だけど、本人にとってはとても大事な出来事なんですよね。
『ランクアップ丼』の上じいも三好くんとの約束を大事にしていたからこそ、二人の関係が長く続いたのでしょうから。
瀬尾さんの話を読むたびに、大事なモノは日常にこそ潜んでいるのだと気づかされます。