『世界でいちばん透きとおった物語』は、本の中にさまざまな仕掛けがほどこされたミステリ小説。紙の本でしか実現できないトリックが満載の物語です。
「電子書籍化絶対不可能」、そんなキャッチコピーに惹かれて読んでみたら、ラストの展開と張り巡らされた伏線、作者の周到な計画にゾッとしました。
いえ、本の中に怖いシーンは一つもありません。作者のプロットの緻密さ、周到さにゾッとしたのです。
『世界でいちばん透きとおった物語』あらすじ
死亡したミステリ作家・宮内彰吾は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの原稿を遺していたらしい。しかし原稿の行方は誰にもわからない。
宮内彰吾の息子である主人公が、なりゆきでその原稿を探すことになった。
女にだらしのなかった父親の愛人や出版関係者を訪ねていくうち、宮内彰吾というミステリ作家の姿が徐々に明らかになっていく。
果たして、原稿はどこにあるのか。『世界でいちばん透きとおった物語』はどんな物語なのか…。
ネタバレ無しの感想
会ったこともない父親の遺稿を巡って、息子が父親の関係者に会いに行くー。どこかロードムービーのような雰囲気のある物語でした。原稿の内容が徐々に明かされていく過程も興味深かったです。
ひとりひとりを訪ねていくうちに、主人公の中の父親像が作られていきます。それが父親の無償の愛…なんて型通りの感動ものにならないところもよかったです。
本そのものがトリック
正直、このタイトルを見た時に「ラストはこうじゃないかな?」と推理した部分は当たっていました。だけど、肝心なのはそこに至る過程、伏線の部分です。
それは伏線なんて生易しいものではなく、本そのものがトリックといっても過言ではないんですよ。
張り巡らされた伏線をラストから遡ってみた時、その周到さ、緻密さに感動を通り越してゾッとしました。よくもまあ、これだけのプロットを実現させたものだわ…。
たしかにこれは「電子書籍化絶対不可能」ですね。こういう制約を逆手に取った「縛り」がある作品、大好きなんですよ。興味を惹かれたのならぜひ、読んでみてください。