『後宮の烏』の白井紺子さんが描く、大正ロマンと幽霊退治『花菱夫妻の退魔帖』。
霊が見える鈴子と、「お祓い」を行う孝冬、夫婦の幽霊退治と二人の出生にまつわる秘密が描かれます。ミステリ仕立てですが、着物の描写もすてきなので、着物好きな人にもぜひ。
『花菱夫妻の退魔帖』あらすじ
侯爵令嬢の鈴子は母の身分が低く、幼い頃は浅草で育った過去を持つ。そんな鈴子は趣味の怪談収集で訪れた子爵邸で血まみれの芸者の幽霊と遭遇する。
そこへ現れた花菱男爵は、十二単の幽霊に芸者の霊を喰わせて「お祓い」を行った。
鈴子の能力と気質に興味をもった孝冬は、鈴子に求婚。鈴子は花菱家に憑く怨霊・十二単の幽霊「淡路の君」の因縁と孝冬の秘密を知ることになる。
『後宮の烏』大正板
特殊能力をもつヒロイン、それを支えるパートナー、次々と明らかになる謎。設定は『後宮の烏』大正版と言った感じですが、『後宮の烏』以上に、描写力と構成力が冴え渡っています。
伏線の貼り方もすばらしいのです。
鈴子の育ての親たちを殺した犯人探し、手のやけどの跡、孝冬の出生の秘密…などなど。一つの謎が明かされると、また一つ謎が現れるので、ページを捲る手を停められません。
美しく、詳細な描写
『花菱夫妻の退魔帖』では、美味しい料理や上流階級の着物が克明に描写されています。
特に、着物の描写が美しいのです。娘時代の蝶をあしらった振り袖に牡丹の帯。新妻になってからの落ち着きのある、洗練されたあじさいの着物。
春から梅雨、夏にかけて、季節にあわせた着物が登場します。大正ロマンを感じる美しいコーデにうっとり…。
そんなすてきな鈴子のコーディネートは、豆千代モダンとのコラボレーション。こちらでは実際に鈴子さんのお着物コーデを見ることができます。
着物や食べ物以外にも、戦前の神社や宗教団体に関する情報や上流社会の様子まで詳細に描かれています。
愛されるヒロイン
最初はお互いの利害のための結婚でしたが、話が進むごとに孝冬が鈴子にベタ惚れになっていきます。
それは、鈴子が自分の意見を言える、それでいて相手を思いやる言葉に優れた女性だからでしょう。
孝冬が自分の秘密を打ち明けても、動じることなく受け入れた鈴子に対し、孝冬の思いは恋を通り越してもはや崇拝になっていきます。さながら、姫を守る騎士といった感じです。
また、妻妾入り交じる華族間では骨肉の争いも珍しくないのですが、鈴子は「なさぬ仲」の異母子の兄や姉、義母にも愛されていて、その様子が微笑ましいです。