誰もみな、葬りたくなる気持ちを持っている。そんな気持ちを埋葬する不思議な棺桶のお話です。
『ビオレタ』あらすじ
婚約者に突然別れを告げられ、雨の中泣いていた妙は、ドーベルマンのような印象の女性・菫さんに「道端で泣くのはやめなさい」と、半ば強引に引きずられ、そのまま彼女の店・ビオレタで働くことになった。
妙は、取引のあるボタン屋、千歳さんと「とりあえず」つきあうことにした。でも、実は千歳さんは菫さんの元夫であり、菫さんの息子・蓮太郎くんの父親でもある。
妙は複雑な心をもちつつも「とりあえず」の日々をおくることにする。
ビオレタは、菫さんがつくる美しい雑貨と、あと、風変わりな「棺桶」を置いている。時々、お客さんが来てはなにか自分にとって埋葬したいものを入れる「棺桶」を買い求め、菫さんがそれを庭に埋める。
けれど、菫さんの部屋には埋葬されない「棺桶」が置いてあった。それは彼女の罪の証らしい。
いつも心に「棺桶」を
これは、毎朝、菫さんと妙が唱和するビオレタの社訓みたいなもの。人には誰しも葬りたくなるような感情や思い出がなにかしらあるものです。
菫さんや千歳さんはそうした思いを真っ向から向き合ったり、受け流したりできる人なので、妙はそんな2人の雰囲気と仲にやきもき・じたばたしちゃうんですね。
でも、そういう妙の感情は登場人物の中で一番共感できるし、一番、読者に近いんじゃないかな。
でも、実は菫さんも千歳さんも、そんなに強い人ではないんですけどね。それがわかってくると、妙の周りも変化してゆく、その流れが自然でいいなと。
肩肘張らずに、読める本。ゆっくり深呼吸した時のような気持ちになる本です。