『まいまいつぶろ』村木嵐

まいまいつぶろ 歴史・時代小説
まいまいつぶろ

『まいまいつぶろ』は徳川幕府九代将軍・家重とその「口」となった大奥忠光。二人の絆と幕府側の思惑を描いた時代小説。

第170回直木賞候補作品。

著:村木嵐
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徳川家重という人物

『まいまいつぶろ』の家重は、優秀な頭脳を持ちながらもひどいの吃音ために人と話すことができません。

おまけに持病で尿が我慢できないため、彼の座った後には尿の跡が続き、それが「まいまいつぶろ(カタツムリ)」のようだと蔑まれています。

家重はこれまでの歴史では「愚鈍」だと言われてきました。しかし、最近では人材配置に優れた隠れた名君として再評価されているのだとか。

ただの愚者であったなら、彼の場合どれほど幸せだったか。武士の頂点である将軍の世継ぎとして生まれ、明晰な頭脳を発揮する術を持たず、周囲に要望を伝えることができないんです。

それは、フランスの『潜水服は蝶の夢を見る』を思い出しました。

そこに、大岡忠光という彼の言葉を聞き取れる人物が現れたことで、周囲とのコミュニケーションを取ることが可能になりました。それはきっと家重の一縷の、でもとても大きな希望になったことでしょう。

男女が逆転した江戸時代を描いたよしながふみさんの『大奥』。こちらでも家重は言語不明瞭で癇癪持ちながら、明晰な頭脳を持つ人物として描かれています。

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家重と忠光

家重の言葉の通詞(通訳)として、懸命に尽くす忠光と、言葉が通じることで才覚を発揮し始める家重。そんな二人の姿に綱吉時代に権力をもった側用人の復活を危惧するものもいました。

けれども忠光は私欲を持たず、ただ「口」に徹します。他人からちり紙ひとつ受け取らない(賄賂とみなされ糾弾されるから)徹底ぶりでした。また、家重も忠光が糾弾されぬように配慮を行います。

そんな二人のバディともいうべき絆は、周囲の人々の心を動かしていきます。

最初は家重を嫌がっていた御台所の比宮(なみのみや)も、やがて家重の思いを知ると二人はよい夫婦になっていくのです。

比宮さんが家重を慈しんで尽くす様子や、家重が比宮さんに薔薇(そうび)を届けるシーンが微笑ましくて好きでした。

文字通りに二人三脚で将軍職をまっとうした家重と忠光。二人の絆の深さに感動しました。

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