乙女の本棚『葉桜と魔笛』太宰治・紗久楽さわ

葉桜と魔笛 人間ドラマ
葉桜と魔笛

文豪の名作と現代のイラストレーターがコラボした『乙女の本棚シリーズ』、今回は太宰治の『葉桜と魔笛』です。

姉妹愛と当時の切ない恋愛事情、少し不思議な出来事が葉桜の思い出とともに語られます。紗久楽さわさんの描写が物語の世界をより深く、美しく伝えてくれます。

『葉桜と魔笛』あらすじ

ある老婦人が語る葉桜にまつわる思い出。校長である父の赴任先である島根のとある街。老婦人の妹は不治の病で先が長くない。

ある時、妹のもとに手紙が届く。実は妹には秘密の恋人がいるらしく、これまでにも何通もの手紙が届いていた。けれども妹はその手紙の主には心当たりが無いという…。

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明治の乙女と恋愛事情

この物語で語られた明治時代は、まだまだ恋愛自体がタブーでした。少女たちは恋も愛も体験せず、顔も知らない相手に嫁ぐのが普通だったのです。

また、この物語のように若い人でも亡くなる確率が高いため、当時の小説にはよくこうした若い女性(男性)の死がモチーフとして取り上げられています。

『葉桜と魔笛』のすごいのは、妹の恋や性への憧れと死への葛藤がリアルに描かれているところだと思います。妹の独白が衝撃的でした。

「死ぬなんて、いやだ。あたしの手が 指先が、髪が可愛そう。」

彼女はどうせ死ぬなら、男を知っておきたかったと嘆くのです。これほど生々しい少女の叫びを読んだのは初めてでした。

葉桜と魔笛』というタイトルも、美しくて意味深です。「葉桜」は老婦人となった姉を表しているのでしょうか。

物語に登場する口笛を「魔笛」としたのも、この物語の不思議さを強調していてとても好きです。

太宰治は、『グッド・バイ』など、どうしようもないダメ人間の話が有名ですが、『女生徒』や『葉桜と魔笛』のように、少女の心情をリアルに描いた名作もあるんですね。

人間としての太宰治は嫌いですが、作家としての太宰治はやはり嫌いになれないですね。こうした作品を読むと…。

同じく太宰の『待つ』も繊細な乙女心を表現しています。やはり太宰の心には乙女がいるなあ。

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乙女の本棚シリーズ

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