『おもちゃ絵芳藤』は、幕末から明治にかけて、激動の時代に生きた歌川国芳の弟子たちの物語です。芳藤はおもちゃ絵を得意とする絵師で、彼の視点から物語が語られます。
『おもちゃ絵芳藤』あらすじ
歌川国芳が死に、弟子の芳藤は師匠の葬式を出すため国芳の娘たちや兄弟子たちを訪ねる。芳藤は兄弟子たちに喪主をつとめるよう声をかけるが、色好い返事はもらえない。
しかたなく戻ると、そこには三味線をかき鳴らして大騒ぎする弟弟子たちがいた。
繊細で臆病な月岡芳年、豪放磊落な落合芳幾(幾次郎)、圧倒的な個性の河鍋狂斎(暁斎)。
彼らと協力し、なんとか師匠の葬式を出しせたものの、追善絵の代表を一門から選ぶにあたり、芳藤は狂斎から「あんたの絵には華がない」と言われてしまう。
国芳の死を契機にして、時代は幕末の混乱から明治へ。芳藤ら絵師たちは苦境にたたされることになり…
絵師の生きざま
芳藤の得意は「おもちゃ絵」という、双六など子供が使う玩具に使われる絵を得意とする絵師。国芳一門でも目立たない存在です。
世の中が明治に変わっても、相変わらずおもちゃ絵と、国芳塾を守ることを生業としている芳藤。その姿はかたくなで、弟弟子たちが仕事を世話しても、頑として譲らない。
読んでいて最初は、芳藤のあまりに平凡さ、時代にのれない頑固さを歯がゆくおもっていました。
お互い憎からず思っていた国芳の娘さんとの縁談も、亡き妻や師匠に遠慮して身を引いてしまうし。
けれど読み終わってみると、絵師という矜持を不器用なりに最後まで貫きとおしたその姿は、すごいもんだな、と感じずにはいられませんでした。
どんな道でも、たとえ人から嗤われようとも最後まで貫き通す。
芳藤が国芳から受け継いだのは、技でも画塾でもなく、「絵師としての生きざま」だったのかもしれません。
歌川芳藤と弟弟子
幕末から明治期にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎。幼いころ国芳一門に所属し、その後、狩野派絵師として活躍しましたが、一部の絵には国芳の影響がみられるのだとか。
おそらく国芳のもとを離れても付き合いはあったのかもしれません。でなければ暁斎が一世一代の仕事「枯木寒鴉図」を描くときに見届けてほしいとは思わなかったでしょう。
だから、『おもちゃ絵芳藤』で国芳一門と河鍋暁斎が絡んでいるのをみて、暁斎ファンとしてはうれしかったです。
他にも「縛り絵」で有名な月岡芳年のエピソードも面白かったです。
普段はおとなしいのに、師匠のお嬢さんに向かっていきなり「縛り絵のモデルになってほしい」とか言い出すし。そりゃ婚家の人たちにフルボッコにされるって…。
江戸時代は案外、他流の絵師たちの交流は多かったのかもしれません。
歌川国芳も若いころ、葛飾北斎のところに出入りしていたと杉浦日名子さんの「百日紅」にもかかれていますしね。
国芳一門が活躍する漫画
こちらは国芳一門が登場する漫画『ひらひら 国芳一門浮世譚』。歌川芳藤をはじめ、国芳や門下の弟子たちが活躍します。