女中が主人公の『小さいおうち』。その作者『女中譚』は中島京子さんが描く、もう一つの女中の物語です。
永井荷風・林芙美子・吉屋信子など、作家が描いた女中が出てくる小説をベースにした連作集でもあります。
物語は秋葉原のメイドカフェの常連、90歳を超えたおすみばあさん。彼女が女中時代の思い出を若者たちに(勝手に)話し始める物語です。
不良女中の人生
『小さいおうち』のタキさんは、勤勉な家事のプロフェッショナルでした。でも『女中譚』のおすみばあさんは、一言でいうなら「すれっからし」です。
おすみさんはもともと女給(現代でいうとホステスみたいなもの)でした。
悪い男と組んで、その男が売った女から金を引き出す手紙を書いてみたり、奉公先を飛び出したり、夜にダンス練習所に通ってダンサーを志してみたり…。
彼女の行動には一貫性がなく、浮草のような暮らしぶりです。
女中体験譚
『小さいおうち』とくらべると、やはり面白さには欠けるかもしれません。
元女中の老婆が昔を回想するという手法は同じです。
しかし、『小さいおうち』のように、当時の社会情勢エピソードでうまく物語を包むのではなく、ちょっと強引のからめている感じがします。
あとは主人公のおすみさんの性格や行動に、まったく共感ができなかったのも原因かも。
メイドと女中
秋葉原のメイド「りほっち」とおすみばあさんの年齢を超えた友情の話は好きでした。
リボンやレース、ボタンなど、「可愛い、きれいなもの」が好きというセンスを共有しているふたり。りほっちは、ばあさんと同じ古アパートに住んでいて、世話をやいたりしています。
ご飯を食べながら、ばあさんがせがまれて昔の話をするところなどは、読んでいてほっとするシーンでした。