『銀河鉄道の父』門井慶喜

銀河鉄道の夜イメージ 人間ドラマ
銀河鉄道の夜イメージ

『銀河鉄道の父』は、深い愛情をうまく表せない不器用な父と放蕩息子の物語です。宮沢賢治一家の家族愛と、賢治の意外な一面がわかって驚きました。

放蕩息子・宮沢賢治

近代時代の文豪といえば、破天荒で自堕落な社会不適合者ばかりです。しかし、宮沢賢治だけは、純粋な製作と農業改革に心血を注いだ立派な人だ。…と、信じていました。この本を読むまでは。

実際の宮沢賢治は、変な商売を思いつくと父親に金の無心をしたり、父親に反抗してみたり…

私の思い描いていた宮沢賢治のイメージが崩れ落ちて行きました…。

また、子どもの頃に賢治が人造宝石を作るエピソードを知り、なんてファンタジックなんだろう…と、ワクワクしたものです。でも人造宝石なんて、家族から見たら「山師」みたいなものだったんですね。

著:門井慶喜
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家長制度と父の愛

現代では親はただ子どもを愛し、見守ればればいいのです。しかし、宮沢賢治が生きた時代は「個人」より「家」が重要視されました。

家族は「家」を存続させるためのパーツにすぎず、家長である父親の最大の仕事は「家」を次の世代に渡すことです。

しかし、政次郎さんは賢治への父性愛ゆえに、時にそのルールを踏み外します。賢治が病気になると家長がやらない看病を買って出たり、我が身を犠牲にしても賢治を守ろうとします。

「家長」の責任と父親としての愛に葛藤する政次郎さんと、父の愛を知りつつも、自分の進むべき道を模索し、時に反発してみせる賢治。

二人の視点が交互に描かれ、この不器用な親子の愛と葛藤が伝わってきます。

そして最愛の妹・トシの死を経験して、宮沢賢治は作家となっていきました。トシさんは、賢治の、いろいろな意味で運命の人だったんだな…。

賢治に作家になるようすすめたり、最後、彼女は死ですらも賢治の作品に影響を遺していったのだから。

やがて、賢治も37歳という若さででトシのもとへ旅立ちます。この時代、子どもが親より先立つことは珍しくありません。でも、政次郎はどんな思いで最愛の息子を見送ったのでしょうか…。

おまけ・銀河鉄道の弟

『銀河鉄道の父』は、宮沢賢治の父親が主人公ですが、賢治の弟・清六は賢治の亡き後、彼の作品と作品の世界を守り続けました。

弟、宮澤清六さんの随筆『兄のトランク』では、賢治との思い出が描かれています。

タイトルの『兄のトランク』は賢治の遺品であるトランクを整理していた時、偶然『雨ニモマケズ』が書かれた手帳を発見した話からつけられました。

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