芥川賞作家・楊逸さんの食にまつわる思い出エッセイ「おいしい中国―「酸甜苦辣」の大陸」
中華料理とは違う、中国のふだんの食卓と家族の思い出。
中国の食にまつわるエッセイ集
「中華料理」といわれる豪華な料理を、中国の人達が日々食べているわけはないだろう…。とは思っていたのですが、中華料理と中国の日常食はまったく違いました。
楊逸さんが育った40数年前の中国はまだまだ貧しく、買い物には「糧表」と言われる配給用紙が必要だったそうです。戦前の日本のようだったのですね。
定番のサンザシの実に飴をコーティングしたお菓子。中国映画「さらば、わが愛~覇王別姫」でもでてきました。中国ではポピュラーなお菓子のようです。
以前は露天で売っていたそうですが、現在、サンザシの実はスーパーでしか手に入らなそうです。
文化大革命と食生活
ハルビンで育った楊逸さんですが、文化大革命中は「下放」で移転を余儀なくされます。
「下放」とは、文革当時、政府が都会の知識人に対し「農村から学べ」と、無理やり地方に強制移住させた政策。
下放以前はお正月に餃子をつくったり、アイスキャンデーを買ったり。貧しいながらも豊かな食生活だったそうです。けれども、文革中、農村ではそんなものはまったく手に入りませんでした。
油も足りないので燃料用の油で調理をしたこともあり、過酷な生活だったのだとか。
そんな厳しい時代の食事も、楊逸さんの文章にかかると、どの料理もおいしそうなんです。
ヒマワリの種やラードで作ったパイ状のお菓子、ロシア人がつくるパン、白菜の漬物など。
そして日本人の私でも何故かしら懐かしい気分になります。
「食」からみた中国
中国が今、これほど発展したのは、昔ひもじさを感じたことがあるからかもしれないな。と感じました。日本の高度経済成長期もひもじさを知っている世代が活躍した時期でしたし。
日中関係が微妙な時期ではありますが、そんな時だからこそ中国の人々を食文化から知るのもいいかもしれません。
なんてったって「食」はどんな国でも重要な関心ごとなのですから。あ、イギリスは別か…。
こちらもおすすめ。楊逸さんの小説『金魚生活』。中国の中年男女の恋と訪日のカルチャーギャップが描かれます。