本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』。多様性が叫ばれる今だからこそ、受け入れられた物語だと思います。
「普通」や「幸せ」は、ひとりひとり違うものだから。
『そして、バトンは渡された』あらすじ
何人もの親の間を、バトンを渡されるようにして育てられた優子。でも、それはちっとも不幸なことじゃなかったし、彼女にとってはそれが「普通」のことだった。
産みの母を幼い頃に亡くし、父親とふたりだった家族に継母の梨花さんが加わり、その後実の父は海外に行き、梨花さんと優子だけになった。
その後は梨花さんの再婚相手・泉ヶ原さんを経て、現在は3人目の父・森宮さんと暮らしている。
やがて、優子は高校の同級生早瀬くんと結婚することになり、これまでの親たちに訪ねるのだが…。
あたらしい家族のかたち
昔であれば「普通じゃない=かわいそう=不幸」と思われそうな、優子の家庭事情。(実際一部の人からはそう思われている。)
これまでの日本の家族は「血がつながった親子が、同じ家に暮らす」ことが理想とされてきました。
それが「普通」で、そこからはみ出たものは「不幸」で「かわいそう」。そんな認識が無意識レベルですりこまれているほどに。
でも「家族」って、「幸せ」って、大切な相手と一緒にいて楽しいのが一番大事なんじゃないかな。それを、優子とその親たちは体現して見せてくれているような気がします。
最後の父親、森宮さん
優子の最後の父親になった森宮さん。友達ともめていた優子に「元気がでるから」と、ひたすら餃子をつくったり、優子にピアノプレゼントしようとして断られると落ち込んでみたり。
やがて優子が結婚相手を連れてくると「あの風来坊」といって父親らしく(?)邪険にするし。
森宮さんが思う父親像は、残念ながらちょっとずれている。
けれどそこがいいんだよなあ。こんな父親と暮らしてみたいと思うもの。
しかし、血のつながらない(しかも成長した)子どもを引き取ることに戸惑いはなかったのか。森宮さんのこんな言葉が、答えなのかもしれません。
自分の明日と自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくるんだって。
親になるって、未来が二倍以上になることだよって。(中略)
未来が倍になるなら絶対にしたいだろう。
この言葉のすごいところは、子供の明日を、自分の所有物と考えてないこと。
親は時に自分の挫折や期待を子どもに背負わせ、自分の人生の意趣返しをすることがあります。
でも、森宮さんや梨花さんは優子が「自分以外の未来」を見せてくれるのを、むしろワクワクして見守っているんです
それが、この親たちのすごいところだなあって思うんですよ。
おまけ
私の森宮さんのイメージは、俳優の高橋一生さんです。映像化されたら高橋一生さんに演じていただきたい。
と、思っていたら、森宮さんは田中圭さんでした。でも、こちらの森宮さんもまたひょうひょうとしていて素敵でした。

瀬尾まいこ作品感想
- 『幸福な食卓』…普通じゃない。でもすてきな家族
- 『優しい音楽』…不倫相手の子どもを預かることになった女性
- 『春、戻る』…突然、「兄」と名乗る年下の男性が現れる
- 『おしまいのデート』…孫と祖父、教師と生徒、偶然の出会いと別れ
- 『図書館の神様』…やる気のない教師と文芸部の少年
- 『そして、バトンは渡された』…何人もの「親」をもつ女の子の話
- 『夜明けのすべて』…PMS、パニック障害に苦しむ二人と、それを見守る大人たち
- 『見えない誰かと』…作者の教師時代の思い出や家族のことを綴ったエッセイ
- 『そんな時は書店にどうぞ』…書店や出版社の人々との交流をユニークに綴ったエッセイ