『龍女の嫁入り 張家楼怪異譚』は中国・唐時代を舞台にした怪異譚。
幽霊を引き寄せてしまう青年と、彼に嫁いだ龍王の孫娘。この若夫婦が幽霊や妖怪の騒動に巻き込まれていきます。
『後宮の烏』シリーズの白川紺子さん初の単行本です。
『龍女の嫁入り 張家楼怪異譚』あらすじ
商人相手の高級旅館・張家楼の主人である琬圭は生まれつき体が弱かった。ある日、売卜者(占い師)から「幽鬼やあやかしを惹きつける体質」だといわれ、お祓いをしてもらう。
それが縁で、売卜者(実は道士)の娘を娶ることになった琬圭。しかし、その娘・小寧の正体は龍王・洞庭君の孫娘であり、人と龍の力をもつ少女だった。
幽霊や妖怪を惹きつける夫と、それを祓う龍女。ふたりの夫婦が遭遇した怪異とは…。
中国の古典をベースにした新しい怪異譚
『龍女の嫁入り』には、中国古典の怪異譚が多く引用されています。
洞庭君の娘と人間の男の恋愛は中国古典『柳毅伝』にもありました。『龍女の嫁入り』では新たに洞庭君の孫娘と人間の男との婚姻譚が描かれます。
また、作中でも登場する虎は、単なる猛獣ではなく神や妖魔の類のもの。中国には「虎に喰われた人間は死後も虎に使役される」といった伝承があるそうです。
他にも歩く死体(キョンシー?)落ちぶれて人間に使役される神など、様々な怪異譚が登場します。
諸星大二郎の諸怪志異シリーズにも虎に喰われた人間の話がでてきます。
新しい退魔ファンタジー
幽霊を祓う龍女の妻と、幽霊を惹き寄せる夫。病弱で幽霊や妖怪が見える琬圭は『しゃばけ』シリーズの若旦那を彷彿とさせます。
琬圭はその好奇心や体質から、幽霊に付きまとわれたり、時に彼らの頼みをきいてやったりします。
小寧はそんな琬圭を見て「人間て不思議だわ」と思いながらもついつい助けてしまうんです。
物語の最後、いつも助けられている琬圭が小寧を救うのですが、そこには琬圭の驚くべき出自が関わってきます。
これ以上はネタバレになるので言えませんが、白川紺子さんのこの新しい退魔ファンタジー、面白いですよ。
ツンデレ妻と鷹揚な夫
小寧はある理由から龍の姿をとることができません。そのため、龍宮では見下され、コンプレックスを抱えています。
もちろん、そんなことを周囲には言えず、勝ち気に振る舞っているのですが。
しかし、琬圭はそんな小寧を「龍の人間、両方の力を備えているんだよ」と言って、彼女を肯定してくれるんです。
琬圭自身も病弱だし、商売をしているので人の気持に寄り添うことが得意なのでしょう。
しかし、好奇心旺盛な琬圭は幽霊騒動にわざわざ首を突っ込んだりして小寧に叱られてしまいます。なんだかわざと叱られたくて幽霊騒ぎに首を突っ込んでいるようにも見えますが。
この夫婦の微笑ましくも不思議な日常を、もっと読んでみたいです。