『天国はまだ遠く』は、自殺志願の女の子と田舎の民宿の主人との交流の物語。人生をリセットできるのは、美味しいご飯と眠ること。
疲れたら休んでいいし、楽しんでもいいんです。そんなふうに思わせてくれるやさしい物語です。
『天国はまだ遠く』あらすじ
仕事も人間関係もいきづまってしまったOL・千鶴。彼女は自殺をするため「誰も私を知っている人がいないところ」と決めた北のほうへ旅立つ。
そこで偶然見つけた山あいの集落・木屋谷。
地域に一軒だけある「民宿たむら」に宿をとった千鶴は。その夜睡眠薬で自殺をはかるものの、なぜか爽快に目覚めてしまった。
失敗したことで急にしぬ気が失せてしまった千鶴は、そのまま民宿たむらに長逗留することになる。木屋谷の何にもない自然と、田村さんがつくるおいしいごはん。
これからのこと、考えなければならないことは山ほどあるのに、考えが浮かばない。そのかわり、今までなくしていたごはんがおいしいと思える事や、気持のいい睡眠を手に入れることができた。
居心地のいい生活は、このまま、ここで暮らしてもいいかなと思ってしまうほどに…
ひょうひょうとした田村さんと、丁寧な生活描写
日々のごはん、季節の移り変わり、田村さんの手仕事。木屋谷での生活が細かく描かれているので、この本を読んでいると時間がゆっくり流れていくような気になります。
そして、宿の主人の田村さんがすごくいいんです。どこかひょうひょうとしていて、さりげなく思いやりがあって。
手負いの小動物のような手のかかる千鶴を、ぶっきらぼうにやさしく見守る田村さん。そんな田村さんのおかげで、千鶴のこころにも少しずつ変化がでてきます。
この田村さんのセリフがいいんです。
「あんた死んだん知らんと、俺、夕飯とか作って待っとったら空しいやろ。」
当たり前のことだけれど、おいしいごはんとゆるやかな睡眠。それと自然は、本当に人を癒す力をもっているのだな、と感じました。
『天国はまだ遠く』映画
2008年位映画化もされていて、田村さんをチュートリアルの徳井さんが演じています。映画もいい雰囲気でした。
瀬尾まいこ作品感想
- 『幸福な食卓』…普通じゃない。でもすてきな家族
- 『優しい音楽』…不倫相手の子どもを預かることになった女性
- 『天国はまだ遠く』…自殺志願の女の子が自然と美味しいもので癒やされる
- 『春、戻る』…突然、「兄」と名乗る年下の男性が現れる
- 『おしまいのデート』…孫と祖父、教師と生徒、偶然の出会いと別れ
- 『図書館の神様』…やる気のない教師と文芸部の少年
- 『そして、バトンは渡された』…何人もの「親」をもつ女の子の話
- 『夜明けのすべて』…PMS、パニック障害に苦しむ二人と、それを見守る大人たち
- 『見えない誰かと』…作者の教師時代の思い出や家族のことを綴ったエッセイ
- 『そんな時は書店にどうぞ』…書店や出版社の人々との交流をユニークに綴ったエッセイ