『夜明けのすべて』はPMS、パニック障害に苦しむ二人と、それを見守る大人たちの物語。読み終わって「ぽっ」っと小さな明かりが胸に灯ったような、そんな温かさを感じました。
『夜明けのすべて』あらすじ
PMS(生理前症候群)に苦しむ藤沢さんは、月に一度、周囲に怒りをぶつけてしまう。パニック障害を持つ山添君は、症状と自分の現状に苦しみ続けている。
藤沢さんはあるきっかけから山添君の病気と苦しみを知り、彼を支えるために動き出す。
しかし、藤沢さんは美容院に行けない山添君のために押しかけて髪を切るものの、コケシのようにしてしまうのだが。
山添君はそんな藤沢さんのおせっかいを迷惑だと思いつつも、久しぶりに笑うことができた。
お互いのことは好きでも嫌いでもないけれど、助け合えるようになっていく二人。少しずつ前を向けるようになってきた山添君は、仕事にも真剣に取り組むことになり…。
理解されない苦しみ
読んでいて、「ああ、わかるなあ」と。
私も若い頃、感情がコントロールできず、怒りを吐き散らしたことがありました。藤沢さんがやらかした後にすごく周囲に気を使うのもわかる。
こういう苦しみは、親しい人にほど打ち明けられないんですよ。だから山添君や藤沢さんのようなお互い「どうでもいい」関係の方が打ち明けやすいのもわかるなあ。
そして、山添君や藤沢さんが、自分に向き合って進んでいく様子を読んで、なんだか過去のふがいない自分が救われたような気がしました。
見守る大人たち
これまでの社会って(特に昭和は)、命に関わる病気や怪我以外は理解されないことが多かったんです。
私も年配者からは「なんだ、そんなことで会社を休んで」とか「我々の時代なんてなあ…」とか言われ続けてきました。
でも、栗田金属の人たちは違うんです。山添くんの発作も、藤沢さんの怒りも、変な気遣いや心配じゃなく「そういうもの」として受け入れてくれています。
これは、「大人だから」じゃなくて、社長や社員さんたち、山添君の元上司の辻本課長がすごいんですよね。メンタルも実力も。
そもそも、このご時世にのんびりと仕事ができる。ということだけで、栗田金属、相当すごい会社ですよ…。
人の苦しみに寄り添える、そんな「大人」に少しでも近づきたいです。
瀬尾まいこさんのエッセイ『そんなときは書店にどうぞ』では、『夜明けのすべて』の執筆や映画化の際のエピソードが書かれていて、映画も見たくなりました。
瀬尾まいこ作品感想
- 『幸福な食卓』…普通じゃない。でもすてきな家族
- 『優しい音楽』…不倫相手の子どもを預かることになった女性
- 『春、戻る』…突然、「兄」と名乗る年下の男性が現れる
- 『おしまいのデート』…孫と祖父、教師と生徒、偶然の出会いと別れ
- 『図書館の神様』…やる気のない教師と文芸部の少年
- 『そして、バトンは渡された』…何人もの「親」をもつ女の子の話
- 『夜明けのすべて』…PMS、パニック障害に苦しむ二人と、それを見守る大人たち
- 『見えない誰かと』…作者の教師時代の思い出や家族のことを綴ったエッセイ
- 『そんな時は書店にどうぞ』…書店や出版社の人々との交流をユニークに綴ったエッセイ