女中文学の源流『流れる』幸田文

芸者イメージ 人間ドラマ
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幸田文の代表作『流れる』は、1955年(昭和30年)発表。芸者置屋の女中の視点から花街の人間模様が描かれます。

正直、昔の小説なので言い回しがわからない箇所も多いのです。けれど、作中の着物や仕草、人物の描写がすばらしく、夢中で読んでしまいました。

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『流れる』あらすじ

芸者置屋「蔦の家」の住み込み女中となった梨花。もともとは「しろうと」の奥様だった彼女は、置屋での暮らしで「くろうと」である彼女たちの暮らしに驚きつつも勤め始める。

その家の主人は名妓だったが、揉め事が耐えない。勤めて早々、前にいた芸者の叔父という男から揺すりをうけるのだった。

映画との相違点

私は成瀬巳喜男の映画『流れる』を見てから原作を読みました。

あらすじや設定は映画とほぼ同じですが、原作では登場人物たちが一癖も二癖もあるキャラクターとして描かれています。

映画では梨花は従順でおだやかな元奥様の女中でしたが(映画では田中絹代が演じていました。)、原作では従順な表面の下に辛辣な観察眼と批評精神が宿っていたのです。

そのほかにも、主人の娘の勝代が不器量だったり、姪の不二子がわがままだったりと、映画と真逆なのには驚きました。

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美しさと汚さ

それと、私が一番印象的だったのが置屋の「汚れ」です。

玄関には犬の排泄物がそのまま放置され、押し入れにはネズミのフン、布団には女の印である赤いシミと、幸田文は置屋の汚さについて事細かに書いています。

よっぽどご自身の女中時代に酷い思いをしたのでしょうか…。(幸田文は一時期、芸者置屋で住み込み女中をしていたそうです。)

「汚れた家は運が落ちる」といいますが、この置屋もまた、その汚れに飲み込まれていくように落ちぶれていきます。

『流れる』の影響を受けた『襷がけの二人』では、家はきれいに掃き清められているのとは対照的でした。

一方で、芸者たちの晴れ着の柄や、着物での仕草などは美しく詳細に描いているのです。

女中文学の源流

『流れる』は、過去に成瀬巳喜男によって映画化されるほか、最近でも直木賞候補作に選ばれた『襷がけの二人』の作者・嶋津輝さんも『流れる』をリスペクトしています。

『襷がけの二人』でも、元芸姑の家に奉公する女中が登場するほか、『あねいもうと』という作品でも『流れる』憧れる家事代行の女性が描かれています。

女中が登場する小説には、中島京子さんの『小さいおうち』や『女中譚』がありますが、『流れる』はそうした女中文学の源流に位置する物語なのかもしれません。

タイトルの通り、物語の系譜が流れていき、現代の作家にも影響を与えているのですから。

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