新潟を舞台に、家族の再生とバスの乗客たちの人生の一コマが綴られる『ミッドナイト・バス』。
やっぱり、伊吹有喜さんの書く物語はいいなあ。
普通の人たちの悲喜こもごもを、やさしい視点で描き出しています。どこにでもありそうだけど、気がつくと引き込まれている。おすすめです。
本の中には辛いこともあるけれど、読んでいて共感するし、希望をもらえます。
『ミッドナイト・バス』 あらすじ
高速バス・白鳥交通の運転手・利一は、自分の運転するバスに16年前に別れた妻・美幸の姿を見つける。
長く心を残した元妻との再会が、利一の家族と、恋人・志穂との関係に波紋を投げかけることに。
父親、恋人、そして元夫として、利一は彼らとの問題に直面し、無骨ながらも彼らとの関係を修復しようとするが…。
家族の再生を軸に、バス乗客の人生が交錯する
『ミッドナイト・バス』は基本、利一と恋人の志穂、息子の玲司、娘の彩菜、そして元妻の美幸の関係とそれぞれの抱える問題について描かれています。
しかしその合間に、高速バスの乗客の人生の一コマが描かれます。実は、その乗客たちは少しずつだけど、利一たちともつながりがあるんです。
家族の物語だけだと閉塞的で暗くなりそうですが、そこに他の人の視点を加える事で、物語がやさしくなる感じなんです。
出てくる人がみんな優しいんだけど、気持ちがすれちがってしまうのが切ないんです。
そんなこじれた家族の関係を少しずつ、糸をほどくように新たな関係を築いていくのが読んでいてとてもうれしくなりました。
毒の人
伊吹有喜さんの話には、時々「わるもの」が出てきます。
非常に毒の強い人間が善良な人を巻き込む展開が多いのですが、今回は故人である利一の母親が「わるもの」のようです。妻の幸を追い込んだのも祖母でしたしね。
ただ今回、祖母はもう死んでいるので具体的な描写はありません。物語はあくまで利一たち家族の再生に重きが置かれています。
けれど、彩菜があれほど美幸に頑なだったのは、おそらく毒の祖母の影響なんでしょう。死んでからも人を不幸にしていく、そんな人間にはなりたくないものです。
映画化
『ミッドナイト・バス』は、原田泰造さん主演で映画化されています。原作のイメージが生かされているし、風景がとても美しいです。
伊吹有喜作品の感想
- 『ミッドナイト・バス』…家族の再生とバスの乗客たちの人生
- 『雲を紡ぐ』…盛岡のホームスパンを題材に、祖父と孫の交流と母親との葛藤
- 『風待ちのひと』…デビュー作。傷ついた男女がともに過ごす一夏の物語