原田ひ香さんの『三人屋』は三姉妹が朝、昼、晩でそれぞれ違う店をいとなむ物語。
読む前は商店街の人情や姉妹愛といった、癒し系の物語なのかと思っていました。でも、中身は意外にも向田邦子風。
つまり、多少ドロドロしています。
原田ひ香さんの小説は、すごく美味しいアサリを食べて満足したと思ったら、いきなりジャリッとした砂が入っていて苦い思いをする、そんな印象があります。
『三人屋』あらすじ
サラリーマンの森野は、近所の商店街で「ル・ジュール」という古い店がモーニングを始めたのを偶然見つけ、時々その店で朝食をとるようになった。
その後、別の時間帯に店の前を通ると、パンやコーヒーのメニューはなく、讃岐うどんの店になっていた。
不思議に思っている森野に、常連客の大輔が連れて行ってくれたのが「ル・ジュール」の夜の姿、スナックだった。
実はこの店、朝は三女・朝日のモーニング、昼は次女・まひるの讃岐うどん、夜は長女・夜月のスナックとして営業している。三姉妹がそれぞれの時間、それぞれの店を営んでおり、周囲からは「三人屋」と呼ばれていた。
三姉妹はそれぞれ確執や問題を抱えつつも、三人で営業を続けていた。しかしある時、夜月が街から姿を消してしまい…。
商店街の日常
『三人屋』のある商店街の様子や人間関係、商売についての描写は、サラリーをもらう仕事の自分からみると、とても新鮮でした。
昔の商店街は専門店が多く、玉子だけを専門に扱ってい店があったんですね。
そういえば昔の商店街は乾物屋や味噌屋などいろいろなお店があり、今でもたまに見かけます。
常にお金の出入りがあるため、サラリーマンとは異なる金銭感覚があるというのも、読んでみて「そうなのか!」と思うことばかりでした。
人情もあるが、秘密もある。
三姉妹はそれぞれいろんな問題を抱えています。とくに次女のまひるは、奔放な長女の夜月と三女の朝日に振り回され、夫は浮気するし、かなり大変。
まひると夜月は犬猿の仲なのですが、三姉妹はどこかで絆を感じているいる気がします。
血のつながった姉妹だからこそ、通じ合えないこともあるし、あるきっかけで通じ合うこともある。私も姉妹なのでよくわかります。
それを形にしたものが父親のレコード(物語の鍵となる)なのでしょうね。
しかし、登場する若い男どものゲスいことと言ったら…!大輔は夜月に心を残しつつも女が絶えず、若い彼女から結婚を迫られてものらりくらりしている。
まひるの夫は、若い子にころっと行っちゃうし、とにかくだらしがない。
そして女たちはそんな男たちをどこかで許しているような気がします。この情けなさや人間関係のちょっとドロドロした感じが、向田邦子ぽいんだよな。
出てくるごはんも美味しそうだし。
ラプンツェル商店街と三人屋のその後を描いた『サンドの女』もおすすめです。