『父の詫び状』を読み、すっかりハマってしまった向田邦子作品。続いて読んだのが『男どき女どき』でした。
小説とエッセイが収録されている短編集であり、向田さん最後の作品集です。「男どき」とは勢いのある幸運の時、「女どき」は不幸の時を指す言葉だそう。
向田作品に登場する人物たちも、それぞれの「男どき女どき」を体験しています。
大人の秘密が詰まった短編『鮒』
最初に掲載された短編『鮒』は、「大人の秘密」がつまった話です。読むと心がざわざわします。
平凡な家庭に突如あらわれた鮒(フナ)。どうやら男の浮気相手が飼っていた鮒のようだ。捨てようとしたが幼い息子が育てると言い出したので、家で飼うことになった。
不安になった男は息子をつれ、かつての女のアパート付近を訪ねてみるが女はいない。
男が帰ると鮒が死んでいた。どうやら妻は感づいていたらしい。息子は母が殺したのではと疑い…
男は秘密を隠し、女は秘密を知っていることを隠す。こんな修羅場を家庭で淡々とやっているのだから、向田作品は恐ろしい。