いしいしんじさんの、切なくて不思議な物語『麦踏みクーツェ』
麦ふみクーツェ あらすじ
港町でそだった「僕」は、ねこそっくりな声を出すことができる。
おじいちゃんは町の吹奏楽のリーダーで音楽のこととなると人が変わったように厳しくなる。
父さんは数学の教師で素数の数式の証明にとりつかれている。
ある日「僕」は黄色い大地を「とん たたん とん」と独特のリズムで麦ふみをするクーツェに出会う。
童話のようで、童話でない物語
わたしにとって、はじめてのいしいしんじ作品です。
童話のようで童話でない、不思議でちょっと切ないお話でした。
いままで読んだことのないような、それでいてどこか懐かしいような舞台の世界。そして、主人公のまわりのユーモラスで優しい人々。
物語の前半部分は吹奏楽のコンクールで優勝して楽しいのですが、町に不思議なネズミの雨が降ったおかげで、町の様子がおかしくなったってしまいます。
そして「ねこ」は進学した音楽学校になじめず、悲しい思いをします。
また、故郷に現れたセールスマンが町の人々をだましてしまうなど辛いことも多く、読んでいて切なくなりました。
へんてこで優しい人々
「ねこ」はある時、蝶の刺青をしている盲目の「ちょうちょおじさん」に出会います。おじさんは友達の名チェリストの「先生」や、先生の娘の「みどりいろ」を紹介してくれます。
ほかにも、「先生」がチェロを弾きに行く娼館の女性たちなど、こころやさしい「へんてこ」な人々との出会いは「ねこ」のこころを癒し、読んでいるわたしまでうれしい気分になってゆきます。
やさしいリズムと音楽が本全体をやわらかく包んでいるような、あたたかい気持ちになる物語でした。