漫画の続きをエッセイで読んだ。「なんで?」とお思いでしょうが、実際に私が読書で体験したことなのです。
現代の漫画に登場した逸話の続きを、大正時代のエッセイ(随筆)の中で見つけました。なぜ、そうなったかというと…
とある中国茶器の逸話
この話を最初に見つけたのが波津彬子さんの漫画『雨柳堂夢咄』でした。
午後の清香
骨董にまつわる不思議な物語『雨柳堂夢咄』は、明治~大正時代の骨董屋「雨柳堂」が舞台の物語です。店主の孫の蓮は、骨董につ物の怪や精霊達の姿を見ることができる少年です。
そのため蓮は「能力」を見込まれて人外の者たちからよく頼み事をされます。そんな『雨柳堂夢咄』の「午後の清香」という話の中に中国茶器にまつわる逸話が出てきます。
蓮の知人であるイギリス人教授・グラント先生が不思議な中国茶器を手に入れます。しかし、間違ったお茶を入れたことで茶器の精霊の怒りを買ってしまいました。
教授に泣きつかれた蓮は、中国茶器にまつわる逸話を教えます。
昔の中国では茶道楽のため家を傾け、乞食になった男がいたが、乞食になってもお気に入りの茶器を手放さなかった。
雨柳堂夢咄より
教授はそこから茶器の精霊をなだめるため、彼の求める中国茶を探し求めるのですが、そこから意外な展開になっていきます。
ひとつの茶器には一種類のお茶しか淹れてはならない。それほどに、中国の人とお茶、茶器への執着を示したエピソードでした。
随筆『上海交遊記』谷崎潤一郎
その後、『谷崎潤一郎・上海交遊記 』という本を読んだ時、なんとこの逸話の元ネタが載っていてたのです。読んだ瞬間「あのマンガの逸話の続きだ!」とわかって驚きました。
谷崎潤一郎が書いた逸話の続きはというと…。
茶器を手放さなかったその乞食は、ある時街の金持ちの家に物乞いを行うついでに、その家の主人のたてる茶を所望する。
面白がった主人が乞食にお茶を振る舞うと、今度は乞食が自分の茶器で茶を入れたところ、同じ水、同じ茶葉を使っているのに、主人の茶とは比較にならないほど美味しかった。
谷崎潤一郎 上海交遊記より
その後、乞食と主人は茶道を通じて生涯の友となったー。
これは、谷崎潤一郎が上海を訪れた時、上海の若手作家たちに聞いた話として書かれています。
奇跡の続編
こうして私は、大正時代の随筆と現代の少女漫画がつながるという奇跡を体験しました。
この逸話の続きがわかった時、本好き、漫画好き、歴史好きにとって、まるで未知の遺跡を発見したような驚きと嬉しさがありました。
時間もジャンルも超えて見つけた「続編」の発見に、改めて「本や漫画を読んでいてよかった」と思うのです。