『無私の日本人』は、歴史学者の磯田道史先生が古文書をもとに書かれた歴史小説。
「無私」とは自分をの欲や利害にとらわれないこと。自分の欲を捨て出世を望まず、人のために尽くした三人の人々の物語です。
これはすべての日本人に読んでほしい。特に政治家の人たちに。
「穀田屋十三郎」は、後に『殿、利息でござる!』として2018年に映画化。羽生結弦さんが殿役で出演しています。
穀田屋十三郎
貧困にあえぐ伊達藩・吉岡宿を救うため、「藩に金を貸しつけて利子を民に分配する」という前代未聞の計画を遂行する十三郎ら9人の有志たち。
財産の殆どを資金として放出。やっと元金をつくったとおもいきや、せっかくの懇願を奉行所や勘定方は保留にされてしまう。さらに役所から資金を要求されたりと、困難が襲います。
「前例がない」で提案を突き返すお役所仕事は、江戸時代から始まっているんですね…。
江戸時代の庄屋という民間政統治システムや、「身分相応」といった、家の大きさによって相応の責任を求められる。
そんな、江戸時代の庶民の社会のしくみについても解説されていて興味深い内容でした。
殿、利息でござる
「穀田屋十三郎」は、後に『殿、利息でござる!』として2018年に映画化。伊達藩の殿様役にはなんとフィギュアスケートの羽生結弦さんが登場。
堂々とた殿様ぶりを演じていました。映画の感想はこちら

中根東里
中国語を学び、詩人としても才能を発揮した中根東里。
彼は、生徂徠や室鳩巣に学ぶものの、出世をよろこばず、街中で草履を売りながら自らの真理を市井の人々に語る人生を送る。
その眼差しは常に世の中の弱き者にそそがれていました。
太田垣蓮月
太田垣蓮月は藤堂家の庶子として産まれ美貌で知られる女性でした。しかし不幸な結婚生活を体験したのちに出家。
隠遁生活に入っても、美貌によってくる男たちが。そうした連中を撃退するため、自ら歯を抜いてみせるといった苛烈な一面を持つ女性。
幕末の志士とも親交が深く、西郷隆盛の江戸攻めを諌める句を詠んだことで知られます。
蓮月尼は「蓮月焼」という陶器を作って生計を立てていましたが、贋作づくりが横行。
しかし蓮月尼は、「それでその人が食べていけるのなら」と、贋作に自作の和歌までつけてやっていたそうです。
それは蓮月尼が修行した境地「自他平等」に即した行いでした。それは、自分と他者との垣根を取り払うことこそが平穏への近道ということ。
確かに後半生の蓮月尼は何事にもとらわれず、幸せそうでした。
古文書に残した思い
「無私の日本人」は古文書からの「歴史の事実」という骨組みに、磯田先生が文章を肉付けしていった物語だと私は思います。
だから物語の根幹であり主軸は、歴史に埋もれた人々が古文書に遺した「思い」だと感じるのです。