原田マハさんのアート小説『楽園のカンヴァス』。アートに興味のある人はより面白く、興味のない人にもミステリのように楽しめる作品です。
『楽園のカンヴァス』はアンリ・ルソーの「夢」を題材にした物語です。
ルソー研究者の主人公たちが、コレクターに招かれて不可思議な鑑定に参加することに。それは、この鑑定対決に買ったものが、ルソーの絵に関する権限を得ることになるというもの。
コレクターから提示された作品「夢を見た」は、果たして本物なのか、それとも…。
事実と虚構の絶妙なデザイン
この物語では、「夢を見た」というルソーの未発見の絵の真贋を依頼されるのですが、この架空の絵が、まるで実際に存在するかのように描かれています。
ほんとうに、どこからが現実で、どこからが創作かがわからりません。読み手である私も物語に翻弄され、ページをめくる手が止まりませんでした。
史実の部分は、原田マハさんは実際にキュレーターとして活躍されていた経験と知識に裏打ちされています。
マハさんはそんな事実を元に「ありえそう」な可能性を探り、事実と虚構を絶妙に織り上げて作品が構成されているんですね。
ミステリのような展開
『楽園のカンヴァス』は、原田マハさんの他のアート小説よりも、ミステリの要素が多い作品です。
一体、どんな結果が訪れるのか。ハラハラしながらページを捲る手が止まりませんでした。
はたして、ルソーの絵は本物なのか。二人の鑑定人、ティムと織絵がどんな判断を下すのか。
彼らが読んだ「夢を見た」というルソーの物語は誰が書いたのか。
インターポールや画商、キュレーターたちが水面下で絵を狙っていて、ティムは脅迫されたり、協力をもとめられたりと、サスペンスのように状況が変化していきます。
二転三転する判定と、最後の真実には驚きました。そして、美術の知識がなくても充分に面白い美術ミステリでした。
もっと知識があったなら、もっと深く読み解けたかもしれないのが残念。
アンリ・ルソーについて
物語の重要な鍵となるアンリ・ルソー。彼は日曜画家、下手くそと蔑まれながらも絵を描き続けます。そしてその後。ピカソなど一流の芸術家からも評価をうけるのです。
しかし、『楽園のカンヴァス』の舞台である1980年代にはまだ、あまり評価は高くなかったようです。
原田マハ アート小説
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