文豪の娘が描くグルメエッセイは、レトロで美味しいものばかり。
日本を代表する文豪・森鴎外の娘・森茉莉は小説やエッセイストとして活躍しました。
茉莉さんは、お嬢様育ちで家事全般苦手だったそうですが、食に関してだけは、食べるのも作るのも大好きだったそうです。朝ドラ『ごちそうさん』のめ以子のセレブ版といったところでしょうか。
『紅茶と薔薇の日々: 森茉莉コレクション1食のエッセイ (ちくま文庫)』には、さまざまな食に関するエピソードが出てきます。
父親と食べた明治の洋食の思い出、鴎外直伝のドイツ料理、婚家で覚えたレシピ、夫と過ごしたフランスの料理の話など、美味しい話がぎっしりと詰まっているのです。
文豪・森鴎外の親バカエピソード
偉大な文豪が日々どんなものを食べていたのか、どんな生活をしていたのか。文豪の生活が垣間見れるエッセイでもあります。
娘の視点からみた森鴎外は、娘を溺愛する親バカだったようです。
- 踊りの師匠が茉莉の羽織を褒めたら「茉莉自身を褒めなかった」と憤慨
- 茉莉さんが大きくなってもひざにのせて「お茉莉は上等♪」と自作の歌を歌う
なんというか、かなりの親バカっぷりを発揮しています。
軍の要職につき、文豪として世に知られる森鴎外ですが、あんがい家の中では普通のお父さんだったんですね。
また、食べ物に関して「シチュウは不潔」だから食べないとか、まんじゅうをご飯にのせてお湯をかけて茶漬けにするだの、へんなこだわりを持っています。
婚家での暮らし
鴎外は、茉莉の教育や嫁ぎ先についても変なこだわりがありました。
「家事などというものはすぐに身につくのだからフランス語を学ばせておけ」
「何もできないから、女中がたくさんいる家じゃないとやっていけないだろう」
と、資産家の家(相手はフランス文学者)へ嫁がせます。
茉莉さんは、箸の上げ下ろしから着替えや髪結い、ほとんど生活のすべてを女中さんにやってもらっていました。そのせいで、後々苦労する事になるのですが…。
それでも姑に気に入られたり、夫についてフランスへ行ったりと、新婚当初は楽しかったようです。
特に可愛がってくれた姑のお芳さんのことや、フランスのカフェの思い出は、エッセイに多く書き残しています。
ただし、元夫の記述は客観的ではあるものの、冷徹さが感じられる気がします。
森茉莉の優雅な生活
さて、お嬢さまが何を食べていたのか、作中語られるのですが、その優雅で、美味しそうなことといったら!
シチュウ、ロオスト・ビイフ、チョコレエト…茉莉さんの書く食べ物の名前はどこか懐かしく、上品な言葉の響きが、美しくも美味しそうです。
まず、。
- 父・森鴎外に連れられていった上野精養軒の本格洋食
- 鴎外がドイツから伝えたじゃがいもと白身魚で作るサラダ
- 婚家で作ったホワイトソオスの鮭料理
- 姑がつくる柚大根などの日常和食
豪華なものもありますが、そのほとんどが庶民でも作れる簡単な料理なので、再現してみたくなります。
ドイツサラダの作り方
なかでも、鴎外直伝のドイツのサラダはエッセイに何度もでてくる、簡単で美味しい料理です。
作り方は簡単。
- じゃがいもと人参をさいの目切りする
- 魚を酢を入れたお湯で湯で魚を茹でる
- ゆで卵、さやいんげん、玉葱などを入れる
このサラダ、気軽に魚を食べられるので便利です。
家事全般だめでも、食べることにかけて貪欲な茉莉さんは、料理をつくるのもお上手なんです。
舌が覚えているってだけで、食べ慣れた鮭のクリームソオスを再現して作ってみせます。そうかとおもえば晩年はベッド上で料理をしするというズボラぶり。
しかし、森茉莉さんの魅力はグルメだけではありません。実は、交友関係もすごいんです。一時期「暮しの手帖」に籍をおいていたり、室生犀星とも親しい。萩原朔太郎の娘、萩原葉子さんとも友だちだったそうで、交友関係も実に豪華なのです。