前作『活版印刷三日月堂』を読んで、すぐ読みたくなって続編を手に入れました。
『海からの手紙 』は、川越で活版印刷所を営む若き店主・弓子さんと、お客さんとの物語。
弓子さんはお客さんとの会話から、彼らが本当に求めている文字のかたちを探し出してくれます。
4つの物語の登場人物は前の物語と少しずつリンクしています。そのつながりが、三日月堂が広がっていくようで、読んでいる方もうれしい。
ちょうちょうの朗読会
朗読の先生に薦められ、小穂たち4人は「車のいろは空のいろ 白いぼうし」朗読会を開くことに。
小穂は同僚の結婚式で配られた活版印刷を思い出し、三日月堂にパンフレットを依頼することに。
弓子さんのアドバイスでパンフレットのイメージも決まり、朗読の練習に励む4人。でも小穂だけは自分の朗読に自信が持てず…。
朗読と活版印刷、どちらも言葉を伝えるものだけど、それ自体が目立ちすぎてはいけないんですね。透明できれいで、相手に伝わらなければいけない。
個性が出すぎると、物語がおろそかになるのでしょうね。
あわゆきのあと
小学生の広太は、先生の朗読会でパンフレットから三日月堂に興味を持ち、時々店を覗き込んでいた。
広太は父親から、生まれてすぐに死んでしまった姉・あわゆきがいたこと、その骨が今も家にあること、次の法事であわゆきをお墓にいれることを知らされる。
わずか3日で死んでしまった姉のこと、死ぬということ。父や母の思いを考えはじめた広太。
三日月堂で知った「ファースト名刺(赤ちゃんに贈る、名前だけの名刺)」をあわゆきと、両親のために作ろうとする。
広太君くらいの年頃って、死を初めて意識する時期だと思うんです。
でも、広太くんは怖いよりもまず、あわゆきのことを考えたんですね。
ただ怖がったりせずに、家族のためになにができるか考えるのって、すてきな子だなあ。
そして、ファースト名刺。赤ちゃんは最初に名前だけがあり、そこから成長して自分を表す言葉を加えられていくってすてきだな。
海からの手紙
川越に住む昌代は、親戚の子供・広太からもらった「あわゆき」の名刺に惹かれ、三日月堂へ。
学生時代、銅版画と製本を学んでいた昌代は、貝をモチーフにした銅版画を好んで作っていた。
恋人との別れで銅版画から離れていたけれど、弓子さんと話すうちに、かつての情熱を思い出し、また、彫り始めるようになる。
やがて弓子さんの活版印刷と銅版画で、貝殻の豆本をつくることになり…。
この、豆本制作の過程がワクワクするんです。
新しい情熱に突き動かされてニードルを動かす。描くことによって、昌代さんは過去の傷を癒やしていきます。
本当に、ものを作るって楽しくてワクワクしますよね。私も、なにかしんどいことがあると、手芸やてづくりをすると、心が楽になりますから。
俺達の西部劇
川越の町で偶然、貝の豆本を手にした片山隆一は、三日月堂が今も営業していることを知る。片山の父はライターで、弓子さんの祖父とも交流があった。
片山は、奔放な父が嫌いだった。父を反面教師として生きてきたが、仕事のリタイアで家族ともぎくしゃくしはじめる。
そんな中、父の仲間から映画同人誌の最後の原稿のことを聞かされ…。
今回のテーマは父と息子。
主人公も父親の最後の原稿を巡って、父と自分、自分と息子との関係を見つめ直していきます。
それにしても、同人誌の版がまだ残っていたなんて、弓子さんのおじいさん、よほど片山さんの父親とその雑誌に思い入れがあったのでしょうね。
活版印刷が人と思いをつないでいく三日月堂。三日月堂に来たお客さんは、弓子さんとの出会いによって、自分の進むべき方向を見出していきます。
でも、弓子さん自身にも、なにかいいことが起こってほしいな、と読者としては思うのです。
