『廃墟建築士』三崎亜記

廃墟イメージ SF
廃墟イメージ

廃墟を建築する…?そんな、ありえない世界を描き出すのが、三崎亜記さんの『廃墟建築士』です。

他にも夜に本が動き出す『図書館』など、奇想天外な非日常の世界を、現実と地続きにして描き出しています。

廃墟を建築する世界

むかし建築事務所でアルバイトをしていたせいか、今でも図面や建築物を見るのが好きです。
だから、まず単行本の方眼紙とイラストの装丁に魅かれてしまいました。

この「廃墟建築士」は建物をテーマに書かれた短編集で、虚構と現実が入り混じった、なんとも不思議な作品です。

著:三崎 亜記
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「廃墟建築士」は文字通り廃墟を設計する建築士のこと。ここでは廃墟は純粋な建築物として必要とされているのです。

この世界では、「廃墟」美術館や博物館、公園のような位置づけなんですね。各国で設置が義務付けられ、廃墟の数やクオリティでその国の文化レベルも決まります。

そんな廃墟に見せられ、廃墟を作り続けたある廃墟建築士の物語。
廃墟建築士の中には、廃墟を悪用したり、住民の反対を押し切って巨大廃墟を建設したりしていて、現実の建設業界にありそうな問題でした。

モチーフは虚構だけれど、現実味を帯びてこの世界が近くに感じられました。

本が飛ぶ図書館

その他、図書館を生物として定義した『図書館』。調教師が夜間開放のために図書館を懐柔していく物語です。

図書館では、夜になると野生化して飛び回るため、本たちを納める調教師がいる。この世界ではもともと本を率いて空を飛ぶ存在がみられ、後に彼らは地上に降りて図書館になった。

調教師が暴れる図書館を抑えるために出す天敵の姿は、ハリー・ポッターのパトローナスを思い起こさせます。

本たちが飛びまわる姿はまさに魔法のよう。

閉架図書が凶暴化したり、寄贈の本は思いが強いので飛翔に向かない。一見荒唐無稽に見える話なのに、そこにはきっちりとしたリアリティもあるのです。

今までにない世界観と描写力には本当に驚きました。

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