三浦しをん初期の作品『月魚』。三浦しをんさんの好きなもの(本とBL)がぎゅっと詰まった美しい物語です。
『月魚』あらすじ
真志喜と瀬名垣は、幼い日に瀬名垣が見つけた稀少本のせいで大切なものを失った。だから二人は近づくことも、離れることもできないでいる。
真志喜は祖父の古書店を継ぎ、瀬名垣も古本の世界で働いている。ある時、地方に本の買い取りへ向かった二人は、そこで長らく行方不明だった真志喜の父が現れ⋯。
過去にトラウマを抱えた幼なじみの青年ふたりの愛と葛藤を、古書店という独特の世界を舞台に描いた作品。
本の世界
きっと、三浦しをんさんは、本当に本の世界を愛しているんでしょうね。
作中、本に関する描写が愛に溢れているんです。古書店の目録業務や登場する古書についての描写も詳細。
ただ、初期作品ゆえなのか、本への愛が過激に表現された文章が印象に残りました。
図書館に入ったら、本は死んでしまう。(中略)欲しい人の間を渡り続ける本を、生きている本と呼ぶんだ。
古書店と普通の書店は、同じ本を扱っていてもその形態が決定的に違います。
書店の本はすべて同じ価値だけど、古本は持ち主の思い入れや希少性などによって値段が変わるから。
それは、本屋というより骨董店の業態に近いかもしれません。
匂わせるくらいの
真志喜と瀬名垣の微妙な関係が好きです。瀬名垣の真志喜への思いは恋愛の情だけれど、真志喜はどうなのかな。
同性ものはこれくらいの、じれったくて、匂わせるくらいの感じがいい。
後に本屋大賞を受賞した『舟を編む』も、本や言葉への愛が文章に詰まった作品でした。
